第二章 飲んだくれ爺とスキンヘッドの田舎者
第19話 すりーいやーずあふたー
3年の月日が流れた。
この間、WizUにとってラビッシュタウンは不可侵の領域のまま、治安維持局もシティマフィアも介入してくることはなかった。
ラビッシュタウンに住む少年──バレットは15歳になった。
彼はこの3年間、
ドクはドクで、見た目どころかサイズからして大きく変わってしまった元『フレッシュゴーレム』をいじくり回し、何とか現状を把握しようと躍起になっていた。
何度かはコクピットで例の金色のMDIに取り込まれそうになっていたが、その度にバレットがMDIに「めっ!」をし、最近になってようやく一人でも安全にルー・ガルーの整備ができるようになったところである。
彼らがこうして平穏な日々を過ごすことができたのは、スラムにどこからも介入がなかったことと、グレンが釘を刺したおかげか、ならず者どもに襲われる機会も減っていたからだろう。
もちろん、それでもたまにはバレットやドクを襲ったり、ルー・ガルーを盜もうとする者はいた。
バレットを襲った者がどうなったかは言うまでもない。ドクもまた基本的にバレットと行動を共にしているので、襲撃者の末路は同じだ。
そして、ルー・ガルーを盜もうとした者。それが本当に存在してたのかどうか、実のところバレットは知らない。
ルー・ガルーのキャノピーが知らない間に勝手に開いていたことは何度かあったが、ルー・ガルー本体には特に異変はなく、コクピット内に誰もいなかったからだ。
まあ盜もうとしたはいいものの、動かせずに諦めたとかそんなところだろうと特に気にしてはいない。
◇ ラビッシュタウン 闇市主催者 スラムの顔役 ◇
「おう、ちょっといいか、バレット」
スラム・ラビッシュタウンでも最大規模を誇る闇市を主催する実力者、グレンは、もはや馴染みとなったボロい倉庫跡地を訪れ、旧知の少年に声をかけた。
彼──バレットはAMルー・ガルーのコクピットで何やら作業をしていたらしく、声掛けからしばらくしてキャノピーを開き、降りてきた。
「ったく、せっかくもう少しでステージ189がノーミスクリアできそうなとこだったっつうのに。
何だよグレン。用心棒の話ならドクにしてくれ」
グレンが管理している闇市も、エルドゥールの治安維持局やシティマフィアが介入してこないのであれば、以前のようにドンパチが起きる心配はない。
もちろんルール無用のスラム街なので、たまには露店の商品をかっぱらったり金ではなく暴力で支払おうとしたり、そういうならず者は出る。
軍用マナ・マシンの接種を受けているグレンの戦闘力ならそこらの雑魚など相手にならないが、グレンはひとりしかいない。広い闇市の全てを守ることなどできない。
そこでグレンは、以前に闇市を襲撃してきた治安維持局を生身で壊滅させたバレットという少年を、用心棒として雇うことを思いついた。
件のバレットはいつの間にか生身どころか、見たこともない怪しげなAMルー・ガルーを所持するに至っていたが、まあ仲良くするなら戦力が多いにこしたことはない。
(それに、おそらくはこの正体不明のAMも、噂の変態研究所から持ち出したものだろうしな。そこは詮索すべきじゃあない)
グレンはバレットを、実在するかどうかもわからない、軍の怪しい研究所の人体実験の被害者である、と未だに誤解していた。
「そうだよグレン! アニキに仕事の話をするんなら、まずはボクを通してよね!」
ドクはバレットがどこからか拾ってきたという孤児で、年齢も性別も彼と同じらしい。
ただ、15歳にして身長180センチを超え、全身にバランスのいい筋肉が付いている彼と並ぶと、身長150センチ程度しかないドクはかなり年下か、あるいは女にしか見えない。
そこにツッコむとぷんすか怒り出すので言わないが。
ドクはこの怪しいAMの整備と改良を担当しているらしいが、AMを持ち出すようなトラブルなどスラムでは起こらないため、最近はもっぱらバレットのマネージャーのような仕事をしているようだ。
実際グレンも、バレットに用心棒を依頼するときはドクを通すようにしている。
今回も実のところ用心棒の依頼なのだが、その依頼元が問題で、まだ小さいドクを通すのはどうなのか、とグレン自身逡巡するところがあった。
ゆえに倉庫でディスプレイを前に何かの作業をしていたドクを飛び越え、バレットに声をかけたわけだが。
「……そうだったな。悪かったよドク。バレットに依頼だ。用心棒のな」
冷静に考えたら、いかに身長差、発育の差があろうとも、バレットとドクは同い年だった。
年齢を理由にドクを避け、バレットに話す道理はない。
「また闇市か? でも、次の開催までにはまだ間があったと思うが」
「ああ、闇市じゃあない。常設の店舗だ。だから今回は短期の依頼じゃなく、ちょいとばかり長期間になる。なに、ずっとその店にいろって話じゃない。上辺だけでいいから常連になってもらって、客としてそれとなく店を守ってほしいってことだ」
グレンがそう話すと、バレットは明らかに面倒くさそうな表情を浮かべた。
「……なんか面倒くさそうだな」
というか、言った。
「お店!? ちょっと待っておくれよグレンの旦那。このスラムに店なんてあったのかい? てっきり不定期開催の闇市か、浮浪者なんだか何なんだか区別がつかない、
どんな店なんだい?」
食いついてきたのはドクの方だ。
「どんな店かって? ここはスラムだぜ。店っつっても『水場』みてえに、生活に最低限必要なもんしか存在してねえ。
その店はな、『酒場』だ」
「酒場かよ! ……えー、酒場って水場と同レベルに語るほど必要性あるのかな……?」
「水場と同じ、ってことはアレか。暴力で酒を奪おうとするロクデナシでもいるのか」
「おうおう、かつて暴力で水を奪ったロクデナシが言うと説得力がちげえな!」
「うるせー。若気の至りだありゃ」
バレットは顔をしかめて頭を掻いた。
あの頃のバレットは確かに、まさしく若気の至りとしか言いようがない暴れようであった。
グレンもそれなりに心労をかけられたものである。
「ま、とにかくそういうわけだ」
「でも、そんなに酒場が大事だってんなら、普段からそれなりに手厚く護衛を用意してるんじゃねえのか? 何で今さら俺に言うんだ」
「そいつは、その酒場が最近できた新参者だからだな。店主がこのラビッシュタウンに来たのは3年前……。ちょうどお前らと同期くらいだ。同期の
同期と聞き些かの情でも湧いたのか、バレットはすこし思案げな表情を見せた。
しかしすぐに断ってくる。用心棒としてその酒場にずっと詰めるのは無理だ、という。
当然だろう。バレットはそんなに暇ではないし、グレンもバレットという最上の駒を酒場の用心棒などに無駄遣いするつもりはない。
「もちろんだ。
依頼の内容は、実は厳密に言えば用心棒じゃあねえ。その新酒場にちょっかいをかけてるロクデナシどもを一網打尽にすることだ」
「一網打尽か……。言うのは簡単だが、どこまでやったら一網打尽と言い切れるんだ? 雑草と一緒で、根っこが残ってたらまたワサワサ生えてくるだろ、ロクデナシなんてよ」
「それについては問題ない。今回、酒場から略奪しているロクデナシどもには、根っこなんてねえからな。
何しろそのロクデナシどもってのは、どうやらこのラビッシュタウンでも隣のエルドゥールでもなく、別の街から来た奴ららしいからだ」
★ ★ ★
さっそくAM使わなさそうな依頼(
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます