第4話 両親の言い分

 私は呆けたまま妹の話を聞いた。

 ……私の認識と真逆なんですけど。

 そして、私が散財する悪逆非道の姉みたいな扱いなんですけど。

 ……そういえば、マシュー様から何度かその話を振られたわ。

 マシュー様は、妹に嘘八百を吹きこまれたんだと思っていたけど……そうじゃなくて、私と妹の見解の相違に気づいて、とりなそうとしていたのかもしれない……。


「……私……。マシュー様に謝らないと……」


 優しい人だった。

 妹に関しての話がちょいちょい出ていて、それが嫌だったんだけど、妹は妹で、飽き性の私にお古を押しつけられていたと思っていたのね……。


 デビュタントのドレス、大切にとっていたのに『マリリンにあげた』って聞かされて悲しかった。

 でも、それは思い出補正。

 確かに私は、新品の真っ白いドレスを作ってもらって楽しいひとときを過ごしたわ。

 欲しがりだと思っていた妹は……あれから5年の間ほとんど手入れもされていないドレスを着せられてデビュタントに参加したの……そりゃあ、嘆くでしょうよ。


「念のために言っておくけど、私はあなたに押しつけたことなんてないわよ。私が全部とっておいたのはあなたのためじゃなく、私はものを大切にとっておくタイプだから。あなたにあげるためじゃないの。そして、あなたが嘆いて以降、私の作るドレスは暗い色になったのよ。……恐らく、シミ対策ね」

「そんな対策いらないわよ! 新品よこせ!」

 妹が叫んだ。

 その通りだと思う。


 両親はうつむいたままだ。

 私と妹の齟齬は、すべて両親から経由されて聞かされた話が嘘八百だったから。

 全員の視線が両親に集まる。


「……うちは貧乏なんですよ。マシュー君との婚姻も支援目当てだし、さらに支援が望めるツインズ伯爵との婚姻は、なんとしてでも取りつけたかった。だから、伯爵が望むほうを渡すしかなかったんだ」

「おやおや、今度は私のせいですか」

 伯爵のおどけた声に、父がビクッとする。


「それにしても……。娘さんお二人は令嬢らしからぬドレスですが、お二人は立派なお召し物ですな。新品ですよね、ソレ」

 伯爵が両親を見ながらつぶやいた。

「え? えぇ、まぁ。……さすがに私たちはお下がりがありませんから」

「でしたらこれからは、安い中古品を仕入れてお渡ししましょう。お金が浮きますよ、よかったですね」

 伯爵がニッコリ笑顔で言うと、妹が大きく拍手した。

「それは素晴らしいわ! 新品なんて必要ないわよ! なんなら、私があちこちに頼んで無料で仕入れてきますわ! 私の装いを見れば、うちがどれだけ貧乏なのかわかっていただけるもの!」


 ……狂ったかのように大声で囃し立てる妹が怖い。

 伯爵は妹をおもしろがっているけど、私は、ちょっとどころじゃなくて引いているわよ。


 なんか、ゴメンね。

 ……あの頃は、単に人の物をほしがるワガママっ子だって思ってたから……って待って。私が悪いんじゃないわよね。どう考えても陥れていた両親のせいよね!?


 私はマシュー様と会って、話した。

「貴男の話を真面目に聞かなくて、本当にごめんなさい。……てっきり妹が嘘をついていて、貴男がそれを信じているのかと思って……」


 マシュー様が苦笑した。

「君たち姉妹がすれ違っていて、二人とも歪んでいるのに気づいていたけどどうすることもできなかったから、僕も悪い。……君は奪われているって言ってたけど、彼女はちょっとしたものを買って贈っただけでも飛び跳ねて喜んでいたから、違うんだろうなってわかってたんだ。ただ、君もその件じゃ頑なだったから、君と僕が結婚して、そして彼女が結婚して、互いに離れたらきっと誤解が解けるって思ってた。……まさか、婚約者すげ替えとはね……。君のご両親は、すごいね」

「本当に申し訳ありません!」


 確かに私は頑なだった。

 見たくなかったのよ。両親と妹を。

 妹が溺愛されて、私の大切なものを奪っていくのが許せなかった。


 ……それは私から見た虚像で、妹は私よりも酷い扱いだったけど。

 両親が私のものを身につけた妹を絶賛していたのは、そうじゃなきゃ妹が「新品を買って」ってねだるからだったのね。


 デビュタントのドレス事件は、私でも引いたわ。

 かわいそうすぎるでしょ……。そりゃあ男爵令嬢だってアレよりはマシって思うでしょうよ。


「……私、ちゃんと買ったものをマリリンに贈るわ。今までは、私の使ったものがほしいんでしょ、って投げやりに渡していたんだけど……。一度でもプレゼントしていれば、きっとすごく喜んでもらえたのにね……」

「あー……。でも君はご両親に『君の使ったものを欲しがっているから』って言われていたんだろう? 思い込むのも無理はないよ」

「……ありがとう……」


 妹と私は互いに親から、

「妹がほしがっているんだから、あなたは姉なんだから譲りなさい」

「あなたにって姉が譲ってくれたのよ、妹なんだからありがたく使いなさい」

 って言われてきた。

 前半は嘘八百。どっちも言ってない。

 むしろ、

「うちは貧乏だから、姉は妹に譲れるよう大切に使って譲れ! 妹は節約のために姉のを使え!」

 って言い聞かせられたらお互い納得したのかもしれない。


 ……いや、妹は無理だよね。

 私は気に入ったなら大切にするので、それの出処がなんだろうと気にしないけど、妹はマシュー様から以外に新品をもらったことない子だもの。


「あ、そういえば……。髪飾りは誤解だったんですね。ごめんなさい。なくしてしまったようなの。……でも、母にまであげることはなかったんじゃない?」

 マシュー様がキョトンとした。

「いや? 君と妹さんにしかあげてないよ。姉妹で同じ髪飾りをつけたらかわいいだろうし、仲直りのきっかけになるかなって思っただけなんだ。……むしろ仲違いが加速することになるとは思わなかったけど」

 マシュー様が苦笑しながら言い、私はなくした髪飾りの行方がわかったのだった。


 その話を妹にも話し、二人で両親の私室に向かいあちこち漁ると、マシュー様から贈られたアクセサリーや高級万年筆などが出てきた。

 妹もキレた。

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