12
「駄目、駄目」
「ごめんなさーい」
「要らないよ」
リアクションはいろいろだけれど、それからも訪れた先の職員の人にことごとく断られた。
が、七軒目くらいだったと思う。
「あらー、嬉しいわ。じゃあ、お願いしちゃおうかしら」
そこの施設の、ぽっちゃりとした四十代くらいの女性が、とても好意的な笑顔で言ってくれたのだ。
「あ……はい!」
思わず、一瞬戸惑い、必要以上の大きな声で返事をしてしまった。
こうして私たちは、広間で、集まったお年寄りを前に、皆さんに喜んでもらえそうな、アイドルっぽさは薄めで、落ち着いたメロディーの歌を、三曲披露した。
ニコニコとした表情で拍手をしながら聴いてくれる女性や、嫌なのかずっとそっぽを向いた男性、ぼーっとした顔つきで歌声が届いているのかいないのかわからない人など、さまざまだったけれども、無事に終了した。
「ありがとうございました」
歓迎して受け入れてくれた施設の方々に、私たち三人は揃ってお礼を述べて、深く頭を下げた。
「いやー、素敵だったわ」
最初にOKの返答をしてくれた女性が、満面の笑みで言った。
「それでなんだけど」
「はい」
「もしよかったら、あなたたち、ここで働かない?」
「え?」
「アイドルでやっていけるのなんて、ほんの一握りでしょう? それよりも、ここで介護の仕事をしたほうが、絶対にいいと思うな」
他の職員の人たちも同感だと大きくうなずいている。
「……あ、いえ……」
「多分あなたたちが考えているほど大変な仕事じゃないのよ。お給料も悪くないし、資格を取れるようにサポートもしてあげる。ノウハウを身につければ一生困らないから、良いこと尽くめ。どう?」
「……じゃ、じゃあ、アイドルは無理そうだってなったら、相談させていただくかもしれません」
「そう。待ってるからね。ちょっと時間が経っちゃったりしても、遠慮せずに連絡してきてね」
「はい……」
それが目当てだったのか。
外へ出ると、二人もそう思っていて、口にしたがってる感じがした。
「じゃあ、次のとこ、行くよ」
また間髪入れずに私が告げると、理恵ちゃんが驚いた調子で返した。
「え? まだやるんですか?」
「だって、歌うことができたのは、まだ一カ所だけじゃん。全然ファンを獲得できてないでしょうよ」
「でも……」
そこで彼女はしゃべるのを止めた。
「何よ?」
「いや、今の施設でもファンになってくれる人がいるのか怪しいですし、効率的じゃないんじゃないかと」
私はカチンときた。
「はー? 何よ、効率的って。だったら、他に良い方法があるの? やりたくもないのにリーダーになっちゃったから、ない頭を使って必死に考えたっていうのに。何もしなきゃ、ずっとデビューできないんだよ。それでお金が手に入らないで、困るのはあんたなんじゃないの!」
今の言葉の最後の部分で、理恵ちゃんはドキッとした様子になった。
やばっ。
その理恵ちゃんを目にして、私は一気に冷静になった。いくら家が貧しいことを自分から打ち明けたとはいえ、やっぱり恥ずかしいし、そこをつつかれるのは嫌に決まっている。なのに……。
「じゃあ、もう今日は終わり! 解散!」
気まずくなった私は、そう言い残して、二人から離れていったのだった。
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