冒険の書がバグりました!

望月 舞冬

プロローグ

「はぁ…元の世界に帰りたかったなぁ…」

薄暗い部屋の隅でぽつりと老人が呟いた。

生きるのを諦めているような雰囲気を醸し出すこの老人も昔は勇者の称号を手にし数々の村を救ってきた英雄であった、

しかし神に認められようが、不屈の精神を持とうが、強靭な肉体に鍛え上げようが、伝説を残してきた勇者と言えど老いには勝てないのだ。

膝や関節が悲鳴をあげてるんだから冒険なんて、ましてや魔王退治なんてとんでもない。

「せめて死ぬ前にやりたい事リストにあったこの年齢で出来る事…あったかな…」

ぼんやりとした記憶を辿り、昔作ったやりたい事リストを思い出す。まぁもうほとんど記憶は無いが。

あった。そうだ、これなら出来る。文字を書くだけ。

「本を…書いてみたいとか、あの時考えてたっけな。」

老人は古びた机からノートとペンを取り執筆し始めた。

こっちの世界に来てからの事、どんな善行をしたか、どんな敵を倒したか、文才は無かったが幸い勇者という称号を与えられたので書く事は十分にあった、そしてその本はきっと勇者の生きた証、冒険譚として語り継がれるであろう。

「……いや違うな、<1周目>は俺達しか、覚えてなかったんだっけ。」

老人がそう呟き今まで書いていたノートを破り捨てもう一度ペンを走らせた。

そして老人は<2週目>の記録をノートに書き始める。できれば<元の世界>の人たちの目に留まりますように。

そう、あれは魔王を倒す直前の事だったんだ。

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