第13話 あかなめのパーフェクトムチムチ教室 前編

 授業中、常に考えていた。


 異性への好意というのは、一体何なのだろうか。


 ただの性欲であると仮定するなら、あるひとつの疑問が残る。

 なぜ俺はスレンダーな女性にしか興奮しないのだろうか。

 性癖と断じてしまうのは簡単だ。


 しかし、そのままではいかないのだ。


 さて、授業は中盤にさしかかっているが、俺の耳に先生の話は入ってきていない。

 ノートはしっかりとっているし、問題はない。

 まあ、強いて問題があるとするならば、今は数学の授業中であり、ノートに書いている内容がとんと理解できていない点である。


 はっきり宣言しよう。

 俺は数学が苦手である。

 中学生の時から、永遠の宿敵に位置付けている。


 因数分解。

 二次関数。

 比例反比例。

 十分必要条件。


 様々な小難しい名前をつけて、数字をこねくり回しているのが理解できない。

 

 数字は数字ではないか。

 なぜXやらYやらを使う。

 数字ではないのに、なぜ小さい数字を右上につけたり、ルートなどという不思議な形の記号をくっつけるのだ。


 数学というものは、まったくもって男らしくない。


 しかし、そんな俺も小学生までは算数が得意という自負があったのだ。

 実際、小学校の時に最もテストの点数がよかったのは算数であった。


 しかしながら、算数が数学へと変貌した瞬間、やつは牙をむいた。

 あらゆる面妖な言葉を繰り出し、その複雑さは日を追うごとに加速していった。


 一度置いていかれれば、永遠に追いつけぬ。


 俺はいつしか、諦めたのだ。

 数学には決して勝てぬ。

 理解し合えない存在は、見て見ぬ振りをするしかないのだ。


 おそらく、俺の性欲に対する姿勢も同じようなものなのだろう。

 理解できないもの。

 男らしさのためと削ぎ落としたつもりだったが、俺はその実、恐怖して蓋をしていたのかもしれない。


 しかし、それでは済まない局面がきてしまった。


 人間は生きている限り、性欲を抱いてる。

 繁殖を求めている。

 それはいくら否定したくとも、否定しきれない事実だろう。



「……ふむ」



 数学の授業が終わり、昼休みになったものの、飯を口に運ぶ気にはなれない。

 どうせ俺の弁当は、余りものを詰め込んだだけのものだ。

 残しても問題はない。


 さて、余った時間でムチムチな女性の画像を漁るとしよう。



「……なるほど」



 ほう。

 昨今、ムチムチな女性が流行っているのだな。

 検索するだけで大量に出てくるではないか。


 太ももが顔ぐらい太く、胸もしっかり出ており、触ったら絶対に柔らかいだろう。

 たしかに、世の中の男の多くが引き付けられるのも納得である。


 しかし。



「ダメだ、理解できぬ……!」



 これは困った。

 どのようにこの贅肉たちを解消できるかという思考に向かってしまうのだ。

 自然とトレーニングメニューが浮かび、栄養バランスを考え、期間ごとの目標数値を計算し、完璧なトレーニングプランが組みあがってしまう。


 エロさを感じるどころの話ではない。


 これは思った以上に深刻な問題である。



「……む?」



 いつの間にか、弁当が空になっているではないか。

 一体全体誰のイタズラだろうか。


 まあ、そもそも食べる気がなかったので、荷物が軽くなっただけだ。

 好都合である。


 さて、自分ひとりで解決できないならば、誰かに相談するしかないわけなのだが――


 

「なあ、千口。今話しても大丈夫か?」

「おう。どうした?」

「お前のフェティッシュへの理解を深めたいのだ。詳しい話を聞かせてくれないか?」



 こいつの恋人はかなりよい体型をしているし、ムチムチな女性への造詣ぞうけいはとても深そうである。

 これほど、俺の悩みに適した男はいないだろう。



「俺のフェチに興味があるのか……?」

「ああ、そうだ。知りたくて仕方がない」

「島田……お前……何を言ってるんだ……?」



 なぜそんなドン引きした顔をしている。

 俺は大真面目だぞ。

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