エロゲの超悪役残虐王子に転生した~可哀想なのは抜けないのでバットエンドフラグを折っていく

四熊

残虐王子に転生しました

 目を覚ました瞬間、豪奢すぎる天蓋付きベッドの上にいた。


「ここ、王城……?」


 鏡に映ったのは、まだ幼いけれど見覚えのある少年の顔。

 

 俺が遊んでいたエロゲの主要悪役キャラ――というかラスボス、残虐王子ライ・ハメルード


 本来の歴史では、こいつは三男ながら唯一の正妃の子として正統性があり、ゲームではライと同じくヒロインや女性キャラたちを辱める役割を担う悪役貴族たちに担がれて王位継承争いの中心人物になる。

 

 そして権力を振りかざし数々の悪行を重ね、最終的には主人公に討たれる運命……。


「でも……俺が悪事しなきゃ詰みじゃなくね?」


 一応、正室の子というだけあって権力を狙うやつが俺を担ぎ上げてくるかも知れないが、この国では長子継承が原則。俺が王位を狙わなければ余計な争いに巻き込まれることなく王族ということで遊んで暮らせそうだし。


「お坊ちゃま、起きていらっしゃいましたか?」


 扉を開けて入ってきたのは、黒髪をきっちり結った絶世の美女メイドのセラス。冷たいほど整った顔立ちなのに、俺を見る目だけは限りなく優しい。


 本来なら俺の悪事を隠ぺいするという影の汚れ仕事を遂行する存在として登場する。

 

 そして裏設定を知る俺は知っている。セラスは元々、凄腕の暗殺者で彼女が暗殺者を辞めようとしたところ所属する組織に追われ、重傷を負ってしまったのだがそれをたまたま助けたのが幼い時にライだ。なので彼女は俺を命の恩人と慕っており何があっても裏切ることはない。


「……ってことは俺、悪事しなきゃ『権力も金もあって、しかも超強くて美人メイドに溺愛される環境』確定?」


 気づいた瞬間、心の中でガッツポーズを決めた。


「よし、これ……勝ちルートだろ」


 ……と、一瞬浮かれたものの、俺はすぐに首を振った。そうだ、忘れちゃいけない。


 俺の頭に、ゲーム内で描かれたライの行動が鮮明によみがえる。


 本来の歴史では、王位継承をめぐる争いが激化し、ライ派についた有力貴族たちが動き出す。兄派につく貴族を暗殺し、民を扇動し、裏で工作を繰り返す。


 ライ自身は最初、母や貴族たちに押される形で関与していった。けれど、一度、血を流すことを覚えると……そこからは急坂を転げ落ちるように残虐性を増していった。血の匂いに酔い、殺戮に快楽を覚え、敵を蹂躙することにためらいをなくす。


 さらに悪いことに、ライを担ぐ貴族たちは王位をライが継承した後に傀儡にしやすくするためわざと淫靡な快楽の世界に引き込んだ。女をあてがい、酒を与え、退廃的な宴を繰り返させる。

 

 そしてその中で異常性癖を植えつけられ、最終的には誰も止められないへと完成していく。


 こんな感じでこのエロゲのライ陣営の役割としては某サイトのタグで言うと超ヒドイ要員なのだ。例を挙げると馬車でヒロインである聖女を轢かせると怪我を負わせて聖女が動けなくなったところを攫い、さんざん弄んだあとに助けてやると嘘をついて聖女が逃げようとしたところを後ろから剣でめった刺しにして殺して興奮する様子が描かれたり。無理やりセラスを襲い、倒錯的なプレイを行ったりもする。


 だが、俺はどんなことがあったとしてもこんなことはしない。


 何故なら俺の脳みそは純愛系しか受け止められないからだ。


 じゃあ、なんでこんな奴が出てくるエロゲをやっていたのかというとパッケージ詐欺で純愛系と誤解して買ってしまい、買ったお金がもったいないから渋々やったということがあるのだが、これは関係ないことなので詳しいことはおいておこう。


 というわけでそのラスボスである俺がその座から降りたのだから大丈夫だ——。いや、大丈夫じゃないな。


 災害イベントでお金がないなら分かるねという下種商人やヤッハー系蛮族の襲撃でヒロインが大変なことになるし、そもそもライ陣営にいた悪役貴族が消える訳じゃない。


 あいつらは俺が手を引いたところで野放しになり、勝手に暴れ出すに決まっている。しかもゲームでは、ラスボスである俺が雑に動くからこそ主人公に付け入る隙が生まれ、最終的に討たれる形で勧善懲悪の構図が完成していた。

 

 つまり、俺が大人しくしていると老獪な悪役たちに主人公が完封され、悪役どもがやりたい放題になる未来が待っている……ってことだ。


「……しゃあねえな」


 王子という立場を利用して、裏から調整していくしかない。問題を一つずつ潰し、最終的には兄か、あるいは主人公にまるっと丸投げ。俺はその後はセラスと一緒に穏やかな余生を送る。


 そういう未来こそが、俺の目指す勝ちルートだ。


 で、主人公についてだが……ゲームの内容を思い出す。


 名前は――ユー。蛮族との戦争に巻き込まれ両親を失ってしまうが、心優しい鍛冶屋に拾われて田舎の村で育てられた平民だ。

 平凡な少年に見えるけれど、実は古代の勇者の血を継いでいて、剣と魔法の才能は飛び抜けている。


 ただし物語序盤は村が平和だったこともあり剣などを振るったことがなく圧倒的に弱い。そのため、彼は何度も挫折することになる。

 

 レジスタンスに加わり、敵の理不尽な暴力に打ちのめされ、ヒロインたちを救えず何度も涙を流す。


 だが、諦めない。第一王子派に拾われ、王都の裏で戦い続ける。最終的に数々の苦難を乗り越え、英雄として立ち上がり、俺――第三王子ライ率いる悪役陣営を打ち破る……。


 それがこのゲームのストーリーだった。


「……にしても腐ってんな、この国」


 王城の窓から見下ろす。華やかな街並みの裏で、飢えに苦しむ人々がいる。

 税を取り立てるだけ取り立てて民には還元せず、地方は盗賊や蛮族の襲撃にさらされてもろくに兵を派遣しない。


 俺の父――国王ドピュルデス三世は、正妃を一人と数人の側室を持ち、王子を三人もうけた。だがその父は病に臥せり、もう数か月は床から起き上がっていない。


 それなのに、未だ後継者を指名しない。


 当然、王位継承争いが加速する。第一王子派と第二王子派、そして俺を担ぎ上げようとする正妃派。

 

 そこに野心ある貴族どもが群がり、影で暗殺や裏切りが飛び交う。


 本来のライは、母である王妃に押し上げられ、野心を煽られ、権力を握ろうとして破滅への道を歩んだ。

 

 だが俺は違う。俺はこの世界の未来を知っている。だから俺が動いて色々なイベントフラグを潰していくのがいいだろう。


「うん、これが最適解だな」


 俺はそう結論づけ、セラスに甘やかされる一日を送るのだった。


 ◇◇◇


「ライ、あなたに会わせたい者たちがいるの」


 その日の夕刻、母であるヴィーネに呼ばれた。


 正妃であるヴィーネは、豪奢なドレスを身にまとい、まるでルビーのような瞳で俺を見つめている。

 

 その隣には数人の貴族たち。どいつもこいつも、いかにも悪役って感じの面構えだ。というか、顔だけでなくやっていることもえげつない奴らだ。


「こちらが、あなたを支えることになる有力者たちよ」


 ゲームで俺の陣営として名を連ねていた悪党どもだ。裏切り上等、民衆搾取当たり前、金と女に汚れきったクズ揃い。


 ……でも逆に考えれば、こいつらを俺の手元に置けば行動を監視できる。暴走を防ぎつつ、利用できるところは利用する。


 思わず笑みが漏れた。


 母はそれを野心と勘違いしたのか、嬉しそうに頷いた。


 だが俺の心の中は真逆だ。


 俺が目指すのは、最高に自由で、最高に甘い人生だ。セラスと二人で笑いながら過ごせる未来のために、頑張っていきますか。


——

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