第12話 魂の接続、そして世界の真実
俺が呪文を唱えると、祭壇全体が轟音とともに激しく振動し始めた。床に刻まれた盟約の文字が、血液が流れる血管のように青く、そして赤く脈打つ。
俺とリ・ユエを結ぶ光は、まるで二つの太陽が一つになろうとしているかのように、激しさを増す。
「うっ…!」
全身の細胞が、無理やり引き裂かれるような激しい痛みに襲われた。それは、魂そのものが、慣れない異質なシステムに強制接続される感覚だ。俺の脳裏に、前世の記憶や、シン・ジエンの破滅ルートのシナリオ、そしてリ・ユエの数百年分の孤独な記憶が一気に流れ込んできた。
――俺は一人だ。俺は、この世界を支えるためだけに存在する。狂気は、私の唯一の友人だ。
リ・ユエの絶望が、津波のように俺の意識を飲み込もうとする。その巨大な孤独と重圧は、俺の持つ知略すら粉砕しそうなほど強大だった。
「…これが、あんたの…孤独の重さか!」
俺は、意識が途切れそうになるのを必死に堪えた。俺の頭脳は、この精神的な負荷を解析しようと全開で稼働している。
その時、リ・ユエが俺の手を強く握りしめた。彼の瞳は、もはや狂気の色ではなく、純粋な苦悶に満ちていた。
「シン・ジエン! 離せ! 君の魂が持たない! 私の狂気が君を破壊する前に、逃げろ!」
リ・ユエの身体から、彼の核となる青い力が再び暴走し始める。彼の力は、俺を守ろうとするが故に、俺を拒絶し、引き離そうとしていた。
「バカ野郎!」
俺は最後の力を振り絞り、叫んだ。
「俺は、あんたの狂気なんて恐れない! あんたの力が、俺の魂を破壊するなら、俺もあんたのシステムを書き換えてやる!」
俺は、脳裏に流れ込んでくる盟約の構造と、リ・ユエの魂の核心を捉えた。そして、俺の持つ唯一のチート、知略を使った。
リ・ユエの力と世界を繋ぐ、古代の呪文。その呪文の最後に、俺は新たな言葉を付け加えた。それは、俺が前世で、システムのエラーを解決する際に使っていた、強制終了(イグジット)コマンドに似た、この世界には存在しない音の連なりだった。
「――リ・ユエ! 呪文の鎖を断て! 魂の負荷を、分断(ディバイド)せよ!」
俺がその『新たな音』を叩きつけると、祭壇を覆っていた青い光が、一瞬で七色の光へと変化した。
世界が、歓喜の悲鳴を上げたように感じられた。
リ・ユエの身体から、世界を繋ぎ止めていた青い鎖が、音を立てて砕け散った。彼は、まるで重力から解放されたかのように、軽やかに浮き上がり、そして、俺の腕の中に倒れ込んできた。
「…軽くなった…」
リ・ユエは、俺の胸に顔を埋め、震える声で呟いた。彼の瞳から、狂気の色は完全に消え失せ、代わりに、安堵と感謝の光が満ちていた。
俺の魂は、破壊されなかった。代わりに、リ・ユエの魂と、奇妙な暖かさで結びついているのが分かった。俺は、世界の柱ではなく、リ・ユエの『支え』として、彼の心のシステムに組み込まれたのだ。
「成功だ、リ・ユエ。…あんたはもう、世界の贄じゃない」
俺は、深く息を吐き、リ・ユエの背中を優しく撫でた。
その瞬間、俺の脳裏に、この世界を創造した創造主の残滓のような、微かな意識が流れ込んできた。
『…等しき価値…孤独ではない…新たなプロット…承認(アプルーブ)』
その意識は、祝福の言葉を残し、静かに消滅した。
俺たちは、世界のバッドエンドを回避した。そして、このゲームの真のハッピーエンドは、ここから始まる。悪役令息と、孤独な世界の守護者の、自由な物語として。
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