第2話 狂気の異能、そして最初の「謎」

「……見つけた」


 リ・ユエの声が響く。それは、ゲームで聞いていた感情のない声とは違っていた。獲物を追い詰めた獣のような、ゾッとするほどの熱を帯びた声。


 その瞬間、彼の周囲の空間がまるでガラスのようにひび割れ、砕け散った。空間の破片がキラキラと光の粒となって、俺の目の前を通り過ぎる。風が強く吹き荒れ、俺の髪を乱し、瓦礫の砂埃が舞い上がった。


 俺は、とっさに腕で顔を覆い、その光景から目を背けた。


「……何を探している?」


 震える声で尋ねる。しかし、リ・ユエは答えなかった。彼は静かに俺に近づいてくる。一歩、また一歩と、靴底が瓦礫を踏み砕く音が、やけに大きく聞こえた。


 俺は恐怖で足がすくみ、動けずにいた。


「君は……何者だ?」


 リ・ユエが俺の目の前に立ち、問いかける。その眼差しは、鋭い刃物のように俺の心を貫いた。


「……シン・ジエンだが?」


 俺は震える声で答えた。


「違う。君は、魂の痕跡が違う」


 リ・ユエの言葉に、俺は息をのむ。魂の痕跡? そんな設定、ゲームにはなかった。


「シン・ジエンは、傲慢で愚かだ。しかし、君は……」


 彼は俺の頬にそっと触れ、その瞳をじっと見つめる。


「……君の魂は、遠い場所から来ている」


 その瞬間、俺の体が震えた。彼は、俺がこの世界の人間ではないことを見抜いた。


「……なぜ、それがわかる?」


「俺の力は、この世界の嘘を見抜く」


 彼はそう言って、ゆっくりと手を離した。そして、壊れた建物の壁にもたれかかり、静かに目を閉じる。


「……帰る」


 彼はそう呟き、俺に背を向けた。


 俺は、彼の後ろ姿を見つめながら、頭の中で整理を始める。

 リ・ユエは、この世界の「嘘」を見抜く力を持っている。そして、この世界の崩壊を一身に背負っている。

 ゲームでは、ただの最強のキャラクターだった。

 しかし、現実は、彼がこの世界の「天啓」だということを示唆している。


 俺は、破滅ルートを回避するどころか、とんでもない世界の真実を知ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る