#18 ティファニーの母
「いらっしゃいませ!」
一人の女が来店。
白いニットのトップスは両肩出しで丈は短め。スキニージーンズにハイヒールの黒いパンプスを履いていた。超ロングの髪はウェーブがかかっている。見た目の年齢は四十代後半。つけまつげでしっかりメイク。
「本日は新しいメガネのご検討でしょうか?」
と私が聞くと、
「この間検査して、メガネを選ぶだけだから」
と女が答えた。
「では、ごゆっくりご覧ください」
と声掛けをして離れた。
その後、他の店員が対応したようで、ティファニーのフレームを選んだようだ。この店では高い商品で、ショーケースに並べてある。詳細な価格はここでは書けないが、三万円以上である。
その後、女の連れの少年が来店し、顧客情報の記入をしてもらうと、名字が同じで年齢は十六歳、親子である。高校生男子の母が肩出しニットにスキニーデニムとは……。
「検査は順番となりますので、フレームをお選びになってお待ちください」
と私は御声掛けして、ハイブランドの商品をご案内しようとしたのだが、母は迷うことなく、一番安いフレームの場所へと息子を連れて行った。
母がティファニーを選んだのに、息子は安いフレームなのだなと、その親子の行く先を見つめた。
親子はいくつか手に取り、暫く品定めしていたが、漸く決めたようでカウンターへとやって来て、
「これにします」
と母が言う。
そして、
「この子、四十分にはここを出ないといけないんです。バイトがあるから」
と言葉を続けた。
時計を見ると、今は三十分。
「少々お待ちください」
と私は言葉を掛けてから、レンズの加工をしていた山っちにその事を伝えて、作業を中断して、検眼に行ってもらった。
検眼後、
「もう、この子はいいですか?」
と母が言うので、
「はい。フィッティングはメガネの受け取り時で大丈夫です」
と私が答えた。
「ちょっと、この子送って行きますね」」
と母が言うので、
「はい」
と答えたが、息子は自転車できていて、母は自動車である。しかも、旧型のパッソ。自転車は乗らないだろうと思っていると、母は、店の入り口まで息子を送って戻ってきた。その必要ってあったのだろうか?
「では、レンズの説明をさせて頂きます」
母に言うと、
「もう一人来ますので、どの組み合わせにするか決めてからでいいですか?」
と母が答えた。
組み合わせとは、割引の事である。二本目の割引か、セット割引がある。
「畏まりました」
私が言うと、一人の男が来店した。
「いらっしゃいませ!」
私が出迎えると、どうやら母の連れのようだ。この男と母の組み合わせは、数日前に見た顔である。母は検査済みだったが、男はまだ検査をしていないようで、受付をして、検査へと案内した。この男と母は夫婦だ。つまり、息子にとっては父である。
そして、その後、父は母に連れられて、一番安いフレームの場所へと向かった。暫く選定し、安いフレームを持ってカウンターへとやって来た。対応したのは他の店員。
ティファニーの母、夫と息子には安い物をセット割引で購入。
この家族の力関係がよく分かるが、この利己的な母の根性も中々である。
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