陽葵編 第1話 マスコットの素顔

ASAMAパノラマレースも終わり、陽葵の胸にはぽっかりと穴が空いたような虚無感が広がっていた。

白バイ隊も辞め、警察も去った今、次に何を目指せばいいのか。阿久沢ファミリーへの復讐も果たし、レースでも勝利を収めた。ひとつの大きな目標を終えてしまった陽葵は、新しい道を探そうとしていた。


そんな折、ライダーズカフェ「J-House」のマスターから連絡が入った。

――土日だけでいい、店を手伝ってくれないか?レースの影響もあり客足が増え、マスターとその父である店長の二人だけでは回らなくなっていたのだ。


暇を持て余していても仕方がない。陽葵は気軽な気持ちで手伝いに行くことにした。


最初はTシャツにデニム、その上にエプロンというシンプルな格好だったが、客に頼まれて一緒に写真を撮ったり、バイクに跨ってポーズをとったりするようになった。

童顔の陽葵は「大学生?」「いや高校生だろ?」などとからかわれ、決して悪い気はしなかった。

むしろ評判は上々で、次第に化粧にも気を遣うようになったほどだ。

警察にいた頃は薄化粧が暗黙の了解だったが、今は違う。

化粧の仕方を雪乃に教えてもらい、自分でも「案外イケてる?…いや、気のせいか?」と鏡の前で苦笑することもあった。


そんなある日、桔梗が大学の学園祭で着たというメイド服を雪乃に着せたことがあった。

それが思いのほか客に大ウケし、「その格好で俺のバイクに跨ってくれ!」と次々に依頼が舞い込む。もちろん見せパン仕様ではあったが、そんな衣装を着た経験のない陽葵は最初こそ恥ずかしくて仕方なかった。

だが慣れとは恐ろしい。次第に羞恥心も薄れ、客との撮影も自然とこなせるようになっていった。


「いつまでも桔梗から借りているわけにもいかないな」そう思った陽葵は衣装を買い取ろうとしたが、桔梗は「お金はいらない。その代わり、今度服を買ってよ」と提案してきた。こうして平日に二人でショッピングモールへ出かけることになった。


待ち合わせを済ませ、駐輪場から店内へ入ろうとしたときのことだ。メインエントランス付近には、ペットショップとペット用品コーナーがあり、陽葵はモールに来るたびに立ち寄って小動物に癒されるのを楽しみにしていた。


だがその日、入口の自動ドアが開くと同時に、一匹のチワワがリードを引きずったまま飛び出してきた。小さな体が、陽葵と桔梗の間をすり抜け、駐車場へと駆けていく。


「まってーっ!」甲高い声とともに、小学校低学年ほどの女の子がチワワを追って駆け出した。


その瞬間、駐車場の奥から乗用車が猛スピードで突っ込んでくる。空いたスペースを見つけ、他の車に取られまいと焦っていたのだろう。ドライバーは左右の確認すらしていなかった。


「危ない!」振り向いた桔梗の声と同時に、陽葵の体が動いていた――。


第2話へ続く…


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