桔梗篇 第2話 すれ違う想い

ショッピングモールでの一件以来、桔梗の心はざわついたままだった。練習で顔を合わせても、つい雪乃を避けるようにしてしまう。視線を合わせず、会話も短く切り上げる。そんな桔梗の態度に、雪乃も違和感を抱いていた。


陽葵が指導を続けるサーキットの特訓では、タイムを縮めるための走行が繰り返された。しかし、桔梗の集中は散漫で、ブレーキングのタイミングを外すことも増えた。見かねた陽葵が「どうしたの、桔梗?らしくないよ」と声を掛けても、桔梗は「ちょっと寝不足で……」とごまかすばかりだった。


桔梗の態度に桜羅も首をかしげる。「ねぇ、最近桔梗ちゃんと雪乃さん、なんか変じゃない?」と小声で陽葵に問いかける。陽葵は「うん、気づいてた。だけど本人たちの問題かもしれないし……」と曖昧に答えるしかなかった。


一方の雪乃は、桔梗の変化に胸を痛めていた。練習後に「一緒に帰らない?」と声を掛けても、「今日は用事があるんで」と断られる。以前なら笑顔で雑談しながら帰路についたのに、その空気は完全に消えていた。


ある日の休憩中、雪乃は思い切って切り出した。「桔梗、私、何か気に障ることした?」しかし桔梗は、一瞬ためらってから「別に……」とだけ答えた。その言葉とは裏腹に、心の中ではショッピングモールで見た光景が何度もフラッシュバックしていた。


雪乃が矢口と並んで歩く姿。笑顔で会話していた二人。──“やっぱり見間違いじゃない”と、桔梗は自分に言い聞かせる。


雪乃は桔梗の曖昧な態度に不安を覚えつつも、それ以上は追及できなかった。その微妙な空気は練習を重ねるたびに濃くなっていき、やがて他の二人にも伝わっていく。


その翌日、矢口はまた桔梗にアプローチしてきた。

これでいったい何度目だろう。今までは軽く受け流していたが、しつこさに少し心が揺れたこともあった──あのショッピングモールで二人を目にするまでは。

けれど奇妙なものだ。何とも思っていなかったはずの矢口先輩が、別の女性と並んで歩いていた。嫉妬じゃない。

誰と一緒にいようと構わないはずなのに、自分以外に視線を向けていたことが、どうしようもなく胸を締めつけた。自分が散々断ってきたのだから当然なのに、それでも心の奥で感情が抑えきれなくなってしまった。 

気づけば口をついて出ていた。「私なんかじゃなくて、もっと綺麗で年上の人が好きなんでしょう?」 矢口が驚いた顔をしたその瞬間、こらえていた涙がにじみ出しそうになり、桔梗は慌てて背を向けた。走り出した足が勝手にバイクへと向かい、振り返った視界の端には、ただ呆然と立ち尽くす矢口の姿が焼き付いていた。 

──そして、ついに雪乃との衝突の瞬間が訪れることになる。


桔梗篇 最終話へ続く...

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