桜羅篇 第3話 処分をめぐる会議

真っ先に女性の学年主任が口を開いた。「校則に、はっきりと書いてあるわけです。本人も認めていますし、入学してすぐに免許を取ってバイクに乗りまわしていた。

これは即退学処分でも良いのではないでしょうか?わが校の品位を著しく汚す行為だと思います」


感情のこもったその言葉に、場の空気が一瞬張り詰める。

だが議長である教頭は静かに応じた。

「バイクに乗ること自体が品位を欠くというのは、いかがなものでしょう。モータースポーツという分野があり、そこに参戦しているライダーの多くは10代半ばから世界戦に挑んでいます。日本では『不良の乗り物』というレッテルがありますが、世界的には決してそうではなく、立派なスポーツの一環なのです」


担任も別の観点から口を開いた。

「県の教育委員会の指針でも、かつては『三ない運動(免許を取らせない、バイクに乗らせない、バイクを買わせない)』という方針がありました。しかし今では『県立高校は生徒の免許取得を妨げない』となり、同時に『交通安全教育アクション・プログラム』も策定されています。高校生への二輪安全教育は年々充実しています」


それにすかさず学年主任が反論した。「とはいえ、ここは私立ですし、校則にきちんと示してある以上は従わせるべきです。レースに出て優勝したからといって、何も処分しないというのは甘すぎます」


生活指導の白石先生も加わる。「その通りです。今回を認めてしまえば、他の生徒に示しがつきません。『なんだ、バイクに乗ってもお咎めなしなのか』と思われかねない。数年前にもバイクで家庭謹慎になった生徒がいましたし、その差が出てしまいます」


教頭はその言葉を待っていたかのように頷いた。

「そうです。10年ほど前でしたね。新しく入られた先生方はご存じないかもしれませんが、バイク事故で高齢者を負傷させた生徒をどう処分するか議論になったことがありました。市内の仲間と暴走行為をしていた最中の事故でした。その生徒の名は小野哲也と言いましたね。当時から阿久沢怜音とつるんでおり、昨日のASAMAパノラマレースでオイルを撒き、飲み物をすり替えた、あの小野です。怜音は寄付金の力で2週間の家庭謹慎、小野は2か月の家庭謹慎でした。その前例を考えるなら、退学は行き過ぎです。むしろ更生させずに卒業させてしまったことを、我々は恥じるべきでしょう」


この言葉に異議を唱える者はいなかった。重苦しい空気の中、結論が導き出される。


「かといって、鈴木桜羅に処分を下さないわけにもいきません。……2週間の家庭謹慎。これでよろしいでしょうか?」


全員が賛成の意を示し、会議は終了した。

教頭は続けて言った。「では担任の山田先生、明日は祭日ですから水曜日に桜羅本人と保護者に連絡をし、朝一番で学校に来るよう伝えてください。

私はこれから理事長に報告に行きます。山田先生も同行をお願いします」

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