響火  Fight for others, Fight to believe.

夢見ルキカイ

第一話 決意と目醒め 

_09時05分 南ルーエ平原・クローガ遺跡_

 

 「いてっ。」


 その時、一人の少女が目を覚ました。

 

 気が付くと、そこには神々しくも寂れた祭壇が広がっていた。

 私のすぐ背面には、一見重工、しかしどこか綻びかけている石碑があった。

 触れるとそれは埃を被っており、ぽろぽろと石片が剝がれた。


 とりあえず体を動かす。足、腕、頭、手。


 「よし...身体カラダに問題はない。」


 ふと気づいたが、私は何も身に着けていないようであった。

 服から下着、靴の何から何まで肌についておらず、まさに”生まれたまま”の姿になっていた。

 

 出口らしき所はあるが、このまま外に出れば私はおそらく捕まるだろう。


 だがその心配も杞憂に終わる。


 傍にはちゃんと衣服類が用意されていた。

 が、見るそれはセーラー服のようであった。

 いや、これは...


 「私の通う学校の制服...だよな?」


 左胸のポケットにはしっかりと校章が刻まれている。しかしそれらは完全に新品同様となっていた。

 靴下にあった穴も消えており、下着まで完全に変えられている。


 これらから推測するに...


 「私は眠っている間にこの場所へ連れてこられ、服をすべて脱がされた上、新しい制服を用意された。...?」


 訳が分からん。新手の変態だろうか。


 まあ考えても仕方のないことではある。何せ情報が少なすぎる。

 そんなことを考えながら外に繋がってるであろう出口へと向かう。


 「まあまずはここがどこかから始めるか...」


 

 しかしその直後。目の前には...


 「広っ...」


 見渡すばかりの広大な自然が広がっていた。











 _09時30分 国立総合兵団魔女対策課本部_

 

 その男は

 本日、新人兵士として配属された。


 「それではこれより、魔女及び魔女対策課についての説明を行う」

 

 小部屋には5人の兵士が集められていた。

 自分のほかには3人、同じく魔女に立ち向かおうとする新人兵士がいた。

 中には小柄な女性もいるが、皆厳しい訓練を乗り越えてきた精鋭のはずだ。


 そしてその前には大人びた上級兵士が立っている。

 若くして才能を発揮し、参謀へと就いたオル・ジョー少佐である。

 

 本日は新人配属初日ということで、研修が行われている。

 

 「まずは魔女というものについて。魔女とは1ヶ月ほど前から活動を開始しており、人間をはるかに逸脱した力を持っている。そして、人間を次々と殺害している集団である。君達もきっと知っているであろう」


 知らないはずがない。いや、忘れるはずがない。


 「本来であればこのような殺人事件が起きた場合、治安維持課及び国直属の特別攻撃隊が対応に当たるものであるが、従来の戦力では魔女に歯が立たず、一般人、兵士を含め、何十名もの犠牲を出してきた。そのため、魔女への対抗策を模索し、撃退するという目的の元作られたものが、我々魔女対策課である。」


 そんなことは知っている。実際、各地でも被害は報告されているし、それが止まる気配はない。新聞の一面には毎日魔女による痛ましい事件が載せられている。

 

 母もまた...魔女に...


 「さて、概要は以上だが、何か質問等はあるか?」

 「あ...では、一つ...」


 そう言って手を挙げ立ち上がったのは先ほど見かけた小さいヤツだった。


 「えと...サクラ・ユトーです...あの...先ほど、魔女に対して歯が立たなかったと仰っていましたが、それは具体的にはどのような事で...?」


 サクラと名乗った彼女は随分と弱弱しい声で話していたが、確かに気になっていた事を聞いてくれた。


 「そのことだが、本当に言葉の通りだ。”歯が” いや、”ヤイバ”が 立たなかったのだ。」

 「刃が...?」

 「ああ。魔女出現に際し、我々も交戦を試みたものの、刀剣類、銃弾、弓矢、打撃、その他火炎による熱など、一切の攻撃が効かなかった。ひるむ様子も見せず、傷一つもつけることが出来なかった。そのため今では、各地での警備の強化、防壁の設置など、守りに徹している状況となってしまっている。」

 「そう...ですか...ありがとうございます。」


 そういうと彼女は席に座った。

 

 防戦一方...一時の凌ぎにはなるが、必ず限界が来る。

 この先は時間との戦いにもなるだろう。


 「他には何かないか?」

 「あ、すみません。小さいことですが...」


 次に手を挙げたのは隣に座っていた青年であった。


 「いや、構わない。むしろ小さいことにこそ気を配るべきだ。」

 「ああ...どうも...オスト・シアです。それでなんですけど、どうして”魔女”というのですか?男の個体はいないのですか?」

 「んん...そうだな。まず魔女自体に明確な性別があるのか、ましてや繁殖をするものなのかすら不明というのが現状だ。しかし最初に発見された魔女に女性的な身体の特徴が見られたため、その段階で魔女と呼称することとしたんだ。」

 「最初に発見された魔女というのは...どのような...」

 「では、今までに発見された魔女についても教えておこう。少し待っててくれ。」


 そういうとジョーさんは退出した。


 部屋の中には少しの沈黙が流れた。

 ふと見ると、サクラは手帳に何かを書き込んでいた。

 先ほどの内容だろうか。かなり熱心な人なのかもしれない。


 まもなくしてジョーさんが書類を抱えて戻ってきたかと思うと前に何枚かの絵を張り出し、話を始めた。


 「今までに発見されたのは、この3体だ。まず初めに発見されたのはこれ。先ほど言った、魔女の由来ともなったやつだ。大きな帽子とローブに身を包んでおり、手足は包帯が巻かれている。」


 その最初に発見された魔女は、確かに女性らしい体系をしていた。が、絵でもわかるぐらいにオゾましい印象を与えた。


 「そして、これが2体目。これは絵だとわかりづらいが、2.5mほどの巨体を持った個体だ。前線部隊の報告によれば、石などを浮遊させ投げつけるという様子が見られたことから、”浮遊の魔女”と呼んでいる。」


 2体目の絵は頭部がずいぶんと細長かった。しかしこれが巨体となれば相当厄介なものになるだろう。


 「3体目。これは1体目、2体目と同じ時に発見された。”浮遊”とは打って変わって小柄で、1.5mほどだそうだ。火を操り、自ら燃えながら高速で突進して来たといった姿も報告されている。呼称はそのまま”火炎の魔女”だ。」

 

 火を扱うといい身構えたが突進...火球を投げてくるものかと思ったのだが。


 「あの...1体目は、何と呼ばれているのですか?」

 

 サクラが質問する。自分も気になっていたところだ。


 「ああ、今話そうと思っていた。1体目は、事件現場の目撃情報から、”浮遊”と”火炎”の指揮を執り一歩下がった立場にいたと推定された。さらに、勇敢にもその魔女に立ち向かい突撃した兵士がいたらしいのだが、近づくことすらままならず、はじき返されてしまったらしい。そのため、ほかの魔女とは違いリーダー的な存在、そしてより驚異的な力を持つ恐れがある存在として”魔女の中の魔女”という呼び方をされている。最も、そんな奴が前線に来るのかは怪しいところだが、あくまで暫定的にそう呼ばれているということを覚えておいてほしい。」

 「はい...すいません、ありがとうございます...」


 魔女の中の魔女...近づくこともできず、ましてや詳しい能力もわかっていない。となれば、対策はより一層難しくなるだろう...

 

 「それでは、時間も迫っていることだし、これにて説明は終了とする。また何かあったら、個別に相談に来るように。」


 これまでの話では一般に公開されてないものも多い。特に”一切の攻撃が効かなかった”という部分が、より一層絶望感を深めることとなる。


 それでも、自分にはやらなければならないことがある。

 そのためには_


 「後で詳しい仕事の内容について話すが、この場は一度解散。アーそうだ、その際に一つ手伝って欲しいことがあるのだが、誰か...」


 「俺が行きます」

 

 自分は手を挙げる。サクラも手を動かしはしていたが、それよりも自分の方が早く、大きく動いた。


 「じゃあ、そこの君、頼む。えーっと名前は...」


 _ここで力をつける必要がある。


 

 「シン・キリマです。よろしくお願いします。」



 そして魔女を倒す。殺す。根絶やしにする。

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