【BL】蛮族の嫁になるって聞いてたのに、なんか話が違うな?!
宇部 松清
第1話 蛮族の集落で生き延びろ!
成る程これが『針の
俺の耳に届くのは、「ウェスパニアの人間だ」、「よそ者の花嫁だ」といった言葉達。
歓迎されてない。
絶対歓迎されてない。
ていうか俺だって正直なところ、このまま回れ右して帰りたい。
ここ、イスタは、多種多様の半獣人が暮らす集落で、縄張りに立ち入るものは何だろうが容赦なく狩り、その頭骨はアクセサリーやインテリアにしてしまうという恐ろしいところだ。俺の故郷、ウェスパニアでは『首刈り蛮族』なんて呼ばれている。
あくまでも噂だと必死に言い聞かせてここまで来たが、駄目だ。あちこちに頭骨が飾られてる。俺も近いうちその辺に飾られるってこと?
そんな恐ろしい集落イスタとの和平のため、俺は、花嫁として嫁ぐ(捧げられる)ことになってしまった。一応断っておくが、俺は男だ。ウェスパニアもそうだが、
噂によるとイスタの女性は、結婚して家庭に入るまでは男と共に狩りに行くものらしく、何なら結婚しても子が出来るまでは夫と共に狩場に赴くほど勇ましいのだとか。ならば、どうしたって体力や腕力で劣る女を娶るよりも、男を妻として迎えた方が彼らにとっては良いのかもしれない。
そんなことを考えてみるものの、その、『男よりも体力面腕力面で劣るはずの女性』だが、半獣人の場合はその限りではない。
俺はさ、まぁ普通の人間なわけ。
たぶんだけど、この集落で群を抜いて非力だと思う。その自信はある。
一応さ、
前を歩いている老人――八十を超えているはずの長老のセージさんですら、俺よりも身体が厚い。
それでも一応、俺は純粋な人間というわけではない。ひい祖母ちゃんが兎の半獣人だったから、その先祖返りが出たとかで、人並外れた聴覚と、真っ赤な目、それから胸に少しだけ兎の毛が生えている。むしろそれがあったからこそ白羽の矢が立ったのだ。わずかにでも
俺は自分の夫になる人が何の半獣人なのかも知らされていない。名前だって知らない。その上、ウェスパニア側の参列者は0だ。そんなことからもお察しの通り、どう考えたって生贄だ。俺はきっと近いうち、首を捻じり切られるなどして殺されるのだろう。そんなのは嫌だ。
「エル殿」
セージさんが俺の名を呼んで振り向く。丸っこい耳がひくり、と動いた。
「すまんなァ、村の者達が」
「あぁ、いや……」
「ただな、勘違いしないでほしい。決して歓迎していないわけではないんじゃ」
「そう……なんですか?」
「いやもうめちゃくちゃ歓迎しとるから。ほんと、ほんとに」
話しぶりはとてもきさくである。
身体の大きさにかなりビビっていたのだが、瞳の奥も案外優しい。
ただ身体の厚みがエグいだけで。八十を過ぎてもなお現役と思われる鋭い爪と牙が怖いだけで。
「エル殿の婿であるディーも、君に会えるのを楽しみにしとってな」
「ディー、さん」
初めて聞くその名を、口の中で転がす。
「ディーさんとおっしゃるんですか」
「え? 何て?」
「あの、名前、いま知りまして」
「えぇっ?!」
巨体の長老が、その大きな身体を震わせる。
「いまァ?! いま知ったのォ?! ちょっとどうなっとるんじゃ、ウェスのやつらは!」
ワシは伝えたぞ!? ほんとじゃぞ?! と身体の大きなセージさんがわなわな震えると、地面がそれに合わせて波打つ気さえしてくる。
「エル殿、なんかよくわからんが、上手く伝わってなかったみたいで申し訳ない。ほら、あそこじゃ。これから夫婦の契りを交わして君の夫になる男があれじゃ」
ザッと鋭い爪で示された先にいたのは、ジトっとした目つきでこちらを見つめている山羊の半獣人だった。角がすんごい。ふっとい。後頭部に向かってぐわっと曲がっている。ああ俺はあれに刺されて死ぬのかもしれない。
そのジト目の、すんごい角を持った山羊の半獣人、ディー=ドロアが、俺のお婿さんらしい。
これは、『首狩り蛮族の村』と恐れられている半獣人の集落イスタに花嫁として捧げられた俺が、何日間、『人』としての姿を保っていられるかの記録――……なんて嫌だ!
いやもう怖すぎる!
ねぇ俺って、ここで何日くらい生きられると思う?
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