断罪された後に悪役令嬢が才能を発揮するので、勝ち馬に乗るためにモブ側近を目指します!

イコ

プロローグ

 美しく着飾った女子生徒、軽薄な笑みを浮かべて楽しそうに笑う男子生徒。



 水晶灯が無数の花弁みたいにきらめき、弦楽がやわらかく流れていた。



 ここはアルセリア王立学院の大講堂であり、卒業パーティーの夜を迎えていた。


 中央には祝辞のための小さな壇が設けられ、会場内には甘い菓子の香りと、新しい礼装の糊の匂いが混ざっていた。



 僕は三年間、この時を待っていた。



 いよいよ断罪の場面を迎える。


 小説で読んだ通りなら、今夜がその時だ。


 

 冷酷冷徹な悪役令嬢、シュビー・セレスティア・グランディールが断罪される。



 僕、ノエル・シュレンは、壁際で銀盆を抱え、来賓用の茶器を運ぶ給仕の手伝いをさせてもらっていた。



 手の中の湯が暴れないように魔法をかけ、足音を殺す。



 会場を満たしていた弦が一度、静まった。


 

 いよいよ舞台の幕が上がろうとしている。



 壇上に一人の美青年が姿を現した。


 第二王子ルシアン・エドモンド・アルセリア様だ。


 淡い銀髪がシャンデリアの光を弾いた。


 その腕に、ピンクの髪に、ピンクのドレスを纏った美少女が抱かれる。


 彼女は平民特待生のプリアだ。

 



 会場の空気がさざ波のように揺れた。


 学生たち、来賓者たちが何が起きるのだろうと注目を集めた。



「本日、卒業を祝うこの場を借り、重大な発表をしたい」



 よく通る声が、会場の音楽を止めてしまう。


 ルシアン王子は一拍の間をおいて、誇らしげに顎を上げる。



「私は隣にいるプリアとの間に真実の愛を見つけた。ゆえに、シュビー・セレスティア・グランディールとの婚約を破棄することを宣言する!」



 息が詰まったような沈黙。


 直後、ざわめきが雪崩のように広がる。



 第二王子とはいえ、王族の発言はアリセリア王国内でかなりの重みを持つ。


 司会の、礼儀作法の先生であるレオポルト子爵が蒼ざめ、言葉を探している。



 緋の絨毯の向こうから、一人の令嬢が歩み出た。



 アメジストのような深い紫髪、雪を思わせる白い肌。ほんの少しの扇の傾け方で、喧噪が嘘みたいに沈んでいく。


 

 彼女が歩くたびに、人々の美しさに目を奪われ、しかし鋭い目つきは噂に違わぬ冷酷冷徹な悪女を思わせるのに十分な雰囲気を纏っている。



 上位者として、彼女の雰囲気は全てが美しく貴族だった。


 彼女の登場に、空気が支配される。


 

「ルシアン殿下」



 やわらかく、しかし一音も落とさない鋭い声。



「婚約破棄は本気でしょうか?」

「ああ、本気だ。私は貴様を愛してはいない。貴様のような冷酷で冷徹な女を誰が愛せるか?!」



 シュビー公爵令嬢を表す言葉がある。

 


 1っ、相手が泣いても動じず、必要な処罰を下す。

 1っ、「好き」「愛してる」と言われても、感情ではなく利益や地位で相手を選ぶ。

 1つ、家庭や人間関係よりも目的・権力・利益を最優先する。

 1つ、表情や声に抑揚をつけず、常に冷静に人を見下ろすような態度をとる。



 表情も、声も、感情も、冷静に対処して、感情を揺さぶるような言葉よりも利益を優先する冷酷な判断力。


 彼女は判断を間違わない。



「私は真実の愛を知ったのだ! プリアと結ばれる。貴様は平民であるプリアのことを貴族ではないという理由で、虐げ、傷つけた。それだけではない。貴様がこれまで公爵家の地位を利用して、数々の悪事を行なってきたことは調べがついている」



 ルシウス王子の背後から、ダリオ・ヴァルクス公爵令息が姿を見せる。


 元帥家の嫡男であり、これまた精悍な顔つきをしたイケメンだ。


 シュビー公爵令嬢のこれまでの悪事が書かれた書類をばら撒いた。



 そこには、彼女が他の令嬢たちに発した言葉や、彼女の配下である令嬢たちが行なった悪事が書かれている。



「どうだ! 貴様の悪事はここに暴かれたのだ!」



 ルシアン殿下は顎を高く掲げ、誇らしげに言い放った。


 その仕草は、舞踏会の主役として喝采を浴びるにふさわしく、少なくとも、彼はそう信じていた。



 僕は、口元の笑みを止めることができない。



 書かれているのは、シュビー令嬢が実際に行なった悪事ではないかもしれない。


 だが、令嬢たちの頂点に立つ彼女が、責任を負うに十分な効果があるかと言われればそうなのかもしれない。


 だが、疑問の残る証拠であることは間違いない。



「この程度なのですね」

「なんだと?!」

「これならば、執事の方がまだマシな仕事をする」



 シュビー令嬢の言葉に、ルシアン王子が叫び声を上げる。


 それに対して、表情を変えることなく、冷静な声で、シュビー令嬢が淡々と告げていく。



「学則と王国法に照らして三点、確認を願えますか?」

「何をするつもりだ?」



 シュビー令嬢は扇を畳み、胸の前で静かに持った。


 そして、彼女の側近である令嬢が素早く、来賓室に書類を手渡していく。



「第一。です。学院の卒業舞踏会は私的宣言の場ではありません。破棄の通告は政務院の承認を要し、学院評議会の議事に代替できません。王国法十二章一項、学院規程第三二条」



 貴族席の老爺たちが互いに目配せするのが見えた。


 彼女の発言に対して、頷いて正しいことを証明する。



「第二。使。今学期、宰相局の監督なしに小印が学院へ持ち込まれ、特待枠の追加推薦に使われました。学務院の記録では、提出者は殿下の侍従、ダリオ・ヴァルクス様です」



 王子の後ろで胸を張る元帥家の嫡男が顔を強張らせる。


 先ほどまでの勝ち誇った顔は完全に崩れていた。


 渡された書類に書かれた推薦者の名前。



「第三。。プリア嬢の実験素材費、寮の改装費の一部が、基金規程を越えて計上されています。こちらに学院監査官の封蝋付き写しを提出させていただきます」



 さらに、王子の不正流用が書かれた書類の証拠が提出される。



 シュビー令嬢が合図を送れば、後列から学院書記官が二名現れる。


 封印紐のついた帳簿を抱えて壇上に進む。


 レオポルト子爵が震える指でそれを受け取り、頁を繰る。静かに息を呑んだ。



「……確かに、規程外の支出と、小印の押捺記録が一致している箇所があります」

「そ、そんなはずはない! ちゃんと処分したはずだ!?」



 ざわめく視線に混じる困惑や嘲りが彼に届いた瞬間、ルシアン王子の笑みはひきつり、声の端に焦りが滲み始める。



「陰謀だ! 彼女は嫉妬で頭がおかしくなったのだ?!」

「ルシアン王子」



 シュビー令嬢が静かに淡々と遮る。



「まず、この場は祝宴です。王家の席に座る者として、司会の許可なく私語で他者の名誉を毀損したことを恥じてください。それともう一点」



 彼女の視線が、ルシアン王子の腰帯に落ちる。



「学則第四条。卒業舞踏会では剣帯の携行は禁止。殿下の随員も同じです」



 ダリオが咎められた犬みたいに肩をすくめ、剣帯に触れた手を離した。


 会場の空気が、張り詰める。


 プリアが前に出る。彼女にとって、この舞台は恋を証明するだけでなく、自らの立場を覆す賭けだったのだろう。



 だが、証拠が突き付けられるたびに頬の紅は引き、声を振り絞る時には震えと涙声が混じっていた。



「わたしは……悪くありません、全ては、王子が!」

「在校生の口上は、学長の許可を得てから発しなさい。今のあなたに発言は許可していません」



 シュビー令嬢は一瞬だけ視線を向け、静かに釘を刺す。



「学長、よろしければ記録石の再生を」



 学長が頷く。書記官が小さな水晶を台座に置いた。


 薄い光が揺れ、音が流れる。


 帳簿室で交わされた声。



『小印があれば通る。殿下の御意向だ』



 レオポルト子爵の声が響いて、乾いた紙のめくれる音、封蝋の押される音。やがて、ルシアン王子の低い声が混じる。



『追加推薦は、プリアのためだ。規程はあとで整える。やれ!』



 会場が凍った。



「断言します。婚約破棄のご宣言は本件とは別の手続きで行ってください。今ここで可能なのは……」



 シュビー令嬢は扇を伏せ、礼をとった。



「学則違反の指摘と、関係者の聴取要請のみです。学院監査官、評議員各位、手続きを」



 青い外套の監査官二人が前へ出る。


 ルシアン王子の顔から血の気が引いていく。


 プリアは震える声で「そんな、私は悪くない」と繰り返していた。


 ダリオは唇を噛む。レオポルト子爵が取り押さえられた。



「本件は学院監査局の臨時審理に付す。関係者は別室へ。祝宴は……規模を縮小して続行します」



 ざわめきの中、シュビー令嬢は会釈だけ残して踵を返した。


 緋の裾が静かに揺れる。冷たい、と誰もが言う。


 でも僕には、その背が、場の秩序と誰かの顔を同時に守ろうとしているように見えた。そして、どこか寂しそうにも……。



「そんなところで何をしているのかしら? ノエル」

「もちろん、給仕のバイトです」

「あなたは今日から、私の執事になるのでしょ? ついてきなさい」

「仰せのままに、我が主人様」

「白々しいわね。全て、あなたが仕組んだことじゃない」

「いえ、僕は執事として当然の仕事をしたまでです」



 そういって僕は銀盆をテーブルに置いて、彼女の後に続いた。


 断罪の夜に至るまで、僕はただの田舎男爵家の三男にすぎなかった。


 全ては、あの日目を覚ました瞬間から始まったのだ



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき



 どうも作者のイコです。


 こちらの作品は公募に応募したいと思っています。


 二十話まで投稿した時点で、一度投稿を下書きに戻します。


 どうぞよろしくお願いします。

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