「心の在処」 "Elemental Master"
Akikundayo
第1話 邂逅
(表紙絵)https://cdn-static.kakuyomu.jp/image/Ixa9U7Kx
光遮るぶ厚い雲の下、薄暗い通りには水の匂いが立ち込めていた。雨の
狭いスペースにひしめきあって林立している
壁面をのたうち回っているような配管の途中に設けられた安全弁が、ときおり空気漏れのような音を立てて、スチームを曇天の空へと噴き出している。
どの建物も建設されてから長い年月がたっていた。
寒々しい冬の夕暮れ、アパルトマンの狭間で、明らかに銃声とわかる音が反響していた。ただでさえ人影の少ない裏通りなのに、そんな音が響いている中を覗き込みに来るような人間はこの街にはいない。
雑然としている裏通りを、顔の隠れるようなつばのひろい帽子に、ダスターコートを着た
狭い路地に、乾いた、だが腹の底を揺らすような音量の発砲音と、銃弾が空気を切り裂き、中空を
男が手にしている拳銃は、コルトM1911ガバメントだった。
つまり、相当な骨董品なのだ。しかし男の拳銃は嗜好品としてではなく、実戦用の武器として丁寧な手入れがされていた。連続射撃をしてもスライドはスムーズに動き、給弾に淀みはなく、発砲後に排出された薬莢は綺麗な放物線を描いて地面におちる。
良く整備された道具は使い手を裏切らない。撃ち放たれた45ACP弾は、追跡者の身体にまるで吸い込まれるように命中していた。
その体に何発の銃弾を受けても、巨躯の追跡者たちは僅かに動きを止めるだけで意に介するような気配はない。防弾なのだろうか、その全身を包むエナメルのような光沢の黒いコートにはかなりの厚みがあるようだ。もしそうならば
追跡者達は銀色の仮面で顔を覆い隠していた。仮面の両目に当たるところは縦長のスリットが開いていて、遠目からは笑顔の図式化に見え無いこともないのだが、そこから覗き見える眼球は真っ赤に充血していて、異様な事に左右が独立して上下に動いていた。
肩幅は成人男性の二倍は広く、そこから垂れ下がる長い両腕には、大きなカギ爪のついた真鍮色の義手が取り付けられている。
見た目からして普通の人間では無い事は明らかだった。まさしく怪人としか表現のしようがない出で立ち。
撃ちはなった銃弾のうちの一発が、怪人の仮面に命中した。金属と金属が削りあう不快で甲高い音が鳴り響き、仮面をつけた顔が衝撃で逸れる。銃弾はどこかへと跳弾し、貫通した様子はないが、三人全員が動きをとめた。
そして、ゲラゲラと笑い出したのだ。
可笑しくてたまらないように、あるものは身をすくめ、腹を抱え、あるものはワザとらしく両腕を広げると
男の必死の抵抗を
生身の人間ならば、一発で動きを止めることのできる45ACP弾を全弾叩き込んだとしても、この怪人どもを倒すことはできないだろう。
それでも、男は覚悟を決めたかのように、歩みを止めて目の前の敵に相対すると、空になった弾倉を落とし、ポケットから取り出した8発入りの拡張弾倉を再装填すると、M1911のグリップを、まるで祈るように両手で包み、しっかりと握りしめた。
怪人達の不愉快極まりない笑い声が静まった今、両者相対するアパルトマンの谷間では陰気くさい
林立するコンクリートジャングルの中で、男は完全に孤独で、理由もなにもわからないまま三人の怪人たちに
冷たい予感で胃が絞られるように軋んだ時、鈴を鳴らすような凛とした声がアパルトマンの谷間に響いた。
「うごかないで!」
言い終わるか否や、男の顔のすぐ側を、強烈な疾風が通過した。
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