第10話 ロボットプログラム作成に熱中する

 大学の一室では、パソコン画面に必死に向き合う煌弥の姿があった。ブルーライト対策を施された眼鏡にアイロン仕立ての白衣を羽織って、真剣に向き合う姿がある。今日は、早急にデリシアのロボット義足ならぬロボットヒレを作ろうといつもお世話になっている成田教授に相談したところ、すぐにでもやろうと理由は聞かずに行動してくれた。教授は失敗してでも次から次へと試作品を作る熱心な研究者だった。


―――「まさか、君から提案してくるとは思わなかったよ。私はね、これだと思うものは次々作っていくから、周りから失敗じいさんなんてあだ名がつくくらいだけど、成功した達成感は最高に気持ちがいいもんだからね。さぁ、作業に取り掛かろうじゃないか」

「は、はい。よろしくお願いします」


 なんでロボットのヒレを作ろうと思ったか、どうしてこんな時期にとか根ほり葉ほり聞く様子はなく、アイデアがあればすぐにやってみようと言ってくれる教授に感謝しかない。これを父である誠一に話したら、煌弥の体はどうなることか命さえも危ないんじゃないかと思えるほど、相談できるものではなかった。誠一は無駄だと思うものにお金をかけることは一切しない。この成田教授に会ってしまったら、コブラとマングースくらいな闘いが始まってしまうのではないかと恐れるくらいだ。


春夏冬あきないくん、今日は外は雨だねぇ。湿気で商品に影響がないといいんだけど……」

「雨ですね。あ、成田教授! これを作る際に防水機能を追加することは可能ですか?」

「防水? ナイスアイデアだね。雨の日でもあるし、防水にしてしまえば、きっと失敗はしにくいね」


 成田教授はただ単に、商品完成だけを考えていた。湿気は機械にとってはダメ―ジになることだってある。それを断ち切るのだから、何度も作る必要は無くなる。完成までの時間を短縮できると喜んでいた。

 煌弥は海の中で使用できる仕様にしたいがために提案したまでだった。自分一人の力では、できないため教授の力を借りたい一心だった。


「それにしても、こんな時間に呼ばれるとはねぇ。僕も考えればよかったかな?」


 時刻は深夜2時。ここに来たのは午前0時。思い立ったら吉日と感じた煌弥は、24時間ひらめいたらすぐ行動する成田教授を大学の研究室に呼んでいた。


「す、すいません。突然、思いついたので……教授ならお付き合いくださるかと思って」

「まぁまぁ。いいけどね。僕も君を午前3時に呼び出したことあるから否定はできないんだ。久々だからワクワクしてきたってところ。徹夜になっても良ければやってもいいかな?」

「ええ、もちろんです」


 煌弥は一刻も早くデシレアを海に返したい理由があった。それは成田教授にも話せない。繊細なものだった。パソコンのモーターが疲れているのか大きい音を出していた。真っ黒な背景に白文字のプログラム画面をずっと見ていると時々頭痛が起きるくらいになる。今は、夢中になっていて頭痛すら起きない。仕事と思っていない。誰かのため、自分のためと考えているうちは苦しくはないのかもしれないと感じていた。

 

――― 一方、その頃、煌弥の実家の部屋では


「あーあ。早く帰って来ないかなぁ。家ではできないっていうけど私を置いていくことないじゃない」


 デシレアは、大きなソファの上でポテトチップスの袋をがさこそいじりながら、覚えたてのテレビリモコンをぽちぽちと触っていた。ロボット義足が相変わらず不具合でぐねぐねしていたが、のんびり過ごす主婦そのものにも見えなくない。人魚でも順応性があって、教えられたことはすぐ活用している学習能力は高かった。


「……誰かいるの?」


 真夜中にテレビをつけながら、ばりぼりと噛んでいればそれは隣の部屋で寝ている両親も気になるだろう。デシレアは気づかれたらまずいと急いで、ソファの下に潜り込んだ。


 煌弥の部屋の中に入って来たのは母の万梨子は、恐る恐る中を覗く。誰もいない部屋にテレビがついていて、テーブルの上には食べかけのポテトチップスがあった。


「誰もいないじゃない。なんで、こんなことになってるのかしら……」


 テーブルの上のゴミを片付けようと近づくと、コツンと足に何かが当たった。何だろうとソファの下を覗こうと、手を伸ばそうとする。


 デシレアの鼓動は想像以上に早まっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る