5話 ファイナルチャンス

「何あの子…」


「新顔?気になるなら、話しかけて来なさいよ…」


「えぇ…?」


ざわざわっ…


「………」


3日間のもの凄く快適な馬車ライフ(清潔な部屋+3食+トイレとお風呂付き)を送っている内にみるみると体が若返り…気づくと10歳の体つきになってました。


なんて言えません。というか誰も信じないでしょう。安心して下さい…ちゃんと、わたしも困惑してます。


あわわわ…!!!ど、ど、ど、どうしましょう!?!?!?


古参の人達が冒険者協会にいない今。若かりし頃のわたしの姿を知ってるのは、代表の人と親方さんくらいなので…当然、こんな反応になるのは分かってましたけど……


「…君。」


「へ、ふぁい!?」


馬車の中の残った水を飲んで、座って待っていたわたしに声をかけたのは…ここを待ち合わせの場所にしようとしていたあの時出会った少女ではなく…なんと、代表の人でした。


「ここだと周囲の目もある。少し時間を置いてから、俺様の部屋まで来てくれるかね?」


そう耳元で囁き、歩き去っていく。


「あ〜…また嫁候補になりそうな女の子をナンパですか、パラステさん!」


「流石はハーレム野郎!!成人した少女じゃ飽き足らず、今度は未成年ですかい?やっぱ、冒険者協会の代表は、面構えが違うっ。」


「よっ、『性竜』殺し!!天下不滅のヤリ、」


「違うぞ馬鹿者!俺様はただ、妻達に平等に愛を焚べているだけ。下品な思想、企てなど一切ない。日中から酒ばっか飲みやがって…そんな暇あるなら、さっさと依頼の1つでも受けて来い!!!」


いつもの冷静な雰囲気は何処へやら。周囲の机を叩き割りながら、酔っ払った冒険者の人達を、追いかけ回していた。


……


「んんっ…粗茶だ。とりあえず、座れ。」


「あっ…ありがとうございます。」


普段なら絶対に座らせてくれないし、お茶も出さないのに…その親切な対応に、若干…寒気がしながら言う通りにする。


「さ、さっきの事だが…」


「えっ…特に気にしてませんよ。何度か見た事ありますし…元気いっぱいですよね。凄いと…思います。」


「その歳で。」と、わたしは付け加えない。


「ふん……先に言った事を覚えているか?」


「はい…今回の依頼を終え次第、冒険者協会から除名処分……ですよね。覚悟は…出来てるつもりです。」


机に置いたヒビの入った宝石を一瞥し、代表の人が、ワイングラスに注がれた…高価な紅茶を上品に飲む。


「なら…結構。元より、俺様はこの決定を覆すつもりはないからな。が…猶予期間を与えてやろうと思う。」


予想外の展開に目を見開く。


「えっ…!?」


「1年。1年やる。その間に、魔導士から大魔導士になれたのなら…」


大魔導士…才能ある魔導士の中でも3割未満の人しかなれない狭き門。未だに、わたしは魔法を1つも覚えてないですけど…けどっ!


「と、取り消してくれる!?」


「近い近い。そうがっつくな…あくまでも一考してやるだけだ。今代の『精霊王』に感謝するんだな。」


今代の『精霊王』…あの少女は、やっぱり人じゃなかったんだ。


窓も閉まっているのに、不意に一陣の風が吹き…わたしの隣にあの少女が現れた。


「話は終わった?」


「大体はな…早くコイツを連れていけ。」


「アンタの要望通り、さっき伝達魔法で異世界スウロウにいる学園長…ギルウィ先生に話をつけてきたわ。『この件が上手く行った暁には復学させてあげます』…ですって。」


少女に肩をちょんちょんと叩かれ、急いで余ったお茶を飲んでから、わたしは席を立つ。


「変人だけど、一応、挨拶くらいはしときなさい。」


「こっ、こんな機会をわたしにくださり、ありがとうございます!絶対、大魔導士になってみせます、お爺さん!!」


「お爺っ!?チッ……早く行け。」


何か失言をした気がするけど、全く気にせずに背を向ける代表の人に深くお辞儀をしていると、謎の浮遊間と共に、視界がぐにゃりと曲がって……


……


ワイングラスを机に置き、窓を開ける。


精霊達が住まう新天地から追放された身とはいえ今代の『精霊王』である、彼女ウイがついていれば、裏で冒険者協会の者達に手引きさせ、あの子を守る必要はない。


何もさせないように情報統制を行い、冒険者カードを僕様が捏造し、ゆっくりと心を砕き、冒険者から身を引かせる理由もない。


「……これで良かったのか。」


20年前…俺様の生涯を賭けて創り上げし霊薬で、肉体を成人したくらいまで若返らせた筈の僕様を『お爺さん』と呼んだ事は、今でも鮮明に覚えている。


俺様はただただ……未知で恐ろしく、それと同時に生まれて初めて、好奇心をそそられた。


異世界スウロウにある魔法学校で魔法を修め、大魔導士に至った俺様ですら分からない。人のカタチをしてるだけの、理解不能な存在。


凡人共が死ぬほど渇望する無限の才を秘めていながら、レベルを上げれば上げるほどにその重荷に肉体がすり潰され、死に至るくらいに弱く存在そのものが矛盾しているあの子に。


「厳重な監獄の中で監視するのではなく『学びの機会を与える』…か。」


かつて…否、今も生徒な俺様にはなかった発想だった。


『精霊王』に俺様の霊薬を渡し、あの子を任せたのは果たして良かったのかどうか…その答えは異世界ズンモシで起きている、戦争が終わった後の世で、事情も知らずさも分かったような口ぶりで、勝手に議論されることだろう。


扉が開き、俺様は心を切り替える。


「…北壁前線はどうなってる?」


「報告っ!!ニャルラ帝国の女皇の軍勢により、熟練冒険者のおよそ4割が戦死。それと、突如、戦場に現れた謎の2人組が、敵味方関係なく暴れていて…」


———俺様に恐怖を感じされ、新鮮な気持ちにさせてくれるあの子を変わらず守るだけだ。今は、それだけを考えていればいい。





























































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