第17話:衝撃の混浴、白肌を添えて

「今日は坊ちゃんが特に頑張られたので、背中を流してあげようと思ったのです」


 慌てふためく俺と対照的に、師匠はあっけらかんといつも通りのテンションだった。


「べ、別にいいですよ……もう洗いましたし」


 美女の裸は目に悪い(良い)

 俺はゆでだこのように顔を真っ赤にしながら師匠に背を向けた。


「いいじゃないですか。もう一度洗えば」

「背中ってそんな何回も洗うもんじゃないです!」

「おや、もしかして恥ずかしいのですか?」

「逆に師匠は恥ずかしくないんですか!? 俺男ですよ!」

「私が生まれた村では、当たり前のことでしたので」


 嘘だろ。ベイル村というところ出身のはずだが、あそこってそんなオープンなの!?


 後ろからザバーっと言う音が聞こえた。自分にお湯をかけているみたいだ。


「ほら早く、こちらへいらしてください」

「だ、大丈夫ですってば!」

「あら? 師匠の言うことが聞けないのですか?」

「うぐっ……」


 彼女にそう言われてしまうと、俺は逆らえない。


「わ、分かりましたよ……」


 俺はなるべく師匠の裸体を見ないよう、目線を下げながら湯船から出た。

 が──男というのは、スケベな己の欲求に抗えないもの。


(うおっ……)


 心の中では見ない! 見ない! と固く誓ったのに、俺は結局師匠の裸を見てしまった。

 スレンダーな、染みや傷が一つもない、彼女の髪の毛と同じ、白雪のような美しい肉体だ。

 引き締まった体は、無駄な部分が一切ない。エロいというより、美しいという感じだ。モデル体型の中のモデル体型と言うべきか。


 ……ちょっとだけ、胸は小さいな。


「ふふ、坊ちゃんも男の子ですね」

「えっ」

「どこを見ているのかバレバレです」

「す、す、すみません!!」


 顔から湯気が出そうになりつつ、俺は師匠の前に桶を置いて、そこに腰を下ろした。


「じ、じゃあ早く洗ってください」

「はいはい」


 師匠はどこかおかしそうに笑いつつ、後ろでごそごそと何かを準備している。

 石鹸を布につけているのだろうか。中世が時代の舞台な世界なので、ボディソープなんてものはない。


 俺の考えは半分当たっていて、しばらく待っていると、俺の背中に石鹸の感触と香りが漂い始めた。

 ただ、もう半分は違った。


 なんと、師匠は自らの手に石鹸をつけて、俺の背中を擦り始めたのだ。


 石鹸と師匠の冷たい手の感触が、気持ち良い。

 ……別にこの気持ち良いって、変な意味じゃないからね!


「痒いところはありませんか?」

「……ない、です」


 一瞬間ができたのは、色んな感情がごちゃ混ぜになってしまい、痒いとかそういうのが分からなくなっていたからだ。


 すると、俺の背中をごしごし洗っていた師匠の手が、突然止まった。


「……師匠?」


 どうしたのか。しかし、後ろを振り向くことははばかられた。


「……大きい背中」

「え?」

「いつの間にか、随分と大きくなりましたね」


 そう言って、師匠は優しく俺の背中を撫でる。


 同時に、俺は今気が付いた。


 転生した頃──まだ10歳だった俺は、師匠を見上げていた。

 だが、あれから5年が経ち、師匠と話すときは見下ろしている。


 気付かぬうちに、俺は師匠より背が高くなっていた。


 成長期なので当然と言えば当然だが、なんだか胸が熱くなった。


「……それで、本当は何しに来たんです」


 感傷に浸りつつ、俺は気になっていたことを口にした。


「あら、気付かれてましたか」

「師匠の弟子ですから」


 先ほどからどうも様子がおかしい。

 師匠のことだ。背中を洗いに来てくれたのは本当かもしれないが、こんなことをするときは真意があるに決まっている。


 それこそ、5年の付き合いだから分かった。


「実は2つほど、坊ちゃんにお伝えすることがあります」

「なんですか?」

「まず、坊ちゃんの修行をこれにて終了します。銀星剣、免許皆伝です。おめでとうございます」

「え──」


 それは、あまりに急なことで、


「2つめは、今し方、旦那様においとまをもらってきました」


 そして、混浴していることがどうでもよくなるくらい、衝撃的なことを言い放ったのだ。


 暇をもらう。それは、この仕事を辞めるという意味──


「……冗談ですよね」

「本当です。旦那様とお話をつけてきたので、一緒にお風呂に入れなかったのですよ」


 さも最初から一緒に入ることを前提に話をしないでほしい。


「続きは、湯に入ってからしましょうか」


 そうして、俺の背に暖かいお湯がかけられる。

 我慢できず、俺は後ろを振り向いた。


 そこには相変わらず、裸の師匠がいる。

 でも、その表情は、慈しみ深い笑顔を浮かべながらも、どこか寂しそうだった──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る