生きる獣たちとDNAメチル化

@KemoPre

第1話 獅子獣人と鷲のモンスターの恋愛話

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 月光と魔法の行使

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 月夜に照らされ、光るは黄金の眼光。一匹の狼のモンスターが獅子の獣人を喰らわんと追いかけていた。

 飛び掛かる狼のモンスター。


 獅子の獣人は、ペロリ。爪をひとなめする。すると、炎が生み出された。

 獅子獣人の唾液にエキソソームが含まれていたのだ。


 空気中を漂うバイオマシンは、それを受容し、様々な化学変化を引き起こす。そうして、今日も魔法は行使される。


 慣性は急には殺せない。狼のモンスターはこのままでは、炎に突っ込むことになるんだろう。


 けれどもそうはならなかった。狼のモンスターもまた、魔法を行使したからである。


 狼のモンスターの咆哮、その細やかな倍音を受容したバイオマシンは、空気中に含まれる水分をかき集め、巨大な水を生み出した。

 狼のモンスターはその水を切り裂くと、飛び散った水は炎をかき消した。

 振りかざされる爪。獅子獣人は狩られてしまうのか。


 しかし、獅子獣人が目を開けると目の前には鷲のモンスターがいた。よく見れば、狼の爪を鷲の爪が受け止めている。

 鷲に刻まれた紋章を見れば、モンスターでありながらモンスターを狩る者、狩人であることが見て取れた。


 こうして鷲のモンスターの姿を目に焼き付けた獅子獣人は、去って行くのであった。

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 獅子獣人とDNAメチル化

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 獅子獣人だったものは、ある日自分がモンスターになってしまったことに気づいた。

 というのも、マナを放つ木の側に立っていても一向に飢えが収まらないのである。

 獣人とモンスターの違い、それはマナからエネルギーを得られるか、得られず他の獣人やモンスターを狩らねばならないかであった。


 そう、獣人はDNAのメチル化が進行すると、モンスターになるのだ。

 獅子のモンスターは、もう何も食べなくても生きていられる存在ではなくなってしまった。

 それは、獣人という楽園からモンスターという地獄への転落でもあった。


 獅子のモンスターは、社会と敵対するつもりなど全くなかったものだから、モンスターでありながらモンスターを狩る存在、狩人の道を選んだ。

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 獅子獣人の初仕事

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 獅子のモンスターは、ターゲットを見て驚いた。以前自分を助けてくれた鷲のモンスターだったのだから。

 彼は今狩人をやめ、獣人を狩っている。それは獣人社会との敵対を意味していた。

 彼に何があったのか、それを知りたい獅子獣人は、この仕事を二つ返事で引き受けた。


 けれども、鷲のモンスターはそうやすやすとは、見つからない。

 貧民街で路上で暮らす獣人に、安酒を渡すと、彼は揚々と答えてくれた。


 「鷲のモンスターなら、電波塔の上にいるさ。

 「いつもそこで獲物を見おろしているのさ」


 半信半疑の中そこへ向かうと案の定鷲のモンスターはそこにいた。


 「よくここまで上がって来れたな?」


 鷲のモンスターは微笑む。


 「うん、キミを探してたんだ。

 「ねぇ、キミはあの時ぼくを助けてくれた鷲のモンスターさんだよね?」と獅子獣人。


 鷲のモンスターは黙り込む。


 「あの時助けてくれたキミが何故こんなことをしているのか、それを聞かせてはくれないかい?」


 鷲のモンスターは、夕焼けに照らされながら、鷲のモンスターは爪をペロリと舐めた。


 伝令を受けたバイオマシンは連鎖反応し、バイオエアロゾルとして伝令が舞う。


 獅子のモンスターはその伝令を受容体から受け取るとその言葉の意味を理解した。


 「そう、あれはモンスターの収容施設がまだあった頃のことだ」

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 鷲のモンスターの回想

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 私たちは、モンスターの強制収容所で暮らしていた。


 それは、モンスターが獣人に危害を加えないために設立された収容所だ。

 けれども、今はモンスターの人権保護の観点から、その存在は失われつつある。


 元獣人のモンスターを狩るのは辛いことだが、仲間のモンスターとも打ち解け合い、獣人を守れることに生きがいを感じていた。あの時までは。

 ある日、仲間のモンスターが、飢えに耐えきれず、強制収容所内の他のモンスターを食べてしまったのである。


 阿鼻叫喚の出来事だった。

 狩人になったモンスターは、獣人を狩ることが許されない。

 狩人所属のモンスターはモンスターを狩る他なくなってしまう。


 けれども、モンスターの討伐依頼は毎日来るが、しっかり狩れるとは限らない。

 獲物を狩れなかったモンスターの最期は飢えて死ぬか、あの時のモンスターのように飢えに耐えきれず、仲間のモンスターを食べてしまうかだ。


 そのモンスターは、私の仲間を次々と手にかけた。

 わたしは、これ以上被害が広がる前にと、そのモンスターに手をかけた。


 わたしの咄嗟の判断やモンスターの暴走があったことはしっかりと監視カメラが捉えている。


 わたしは、情状酌量の余地があるとして、見逃された。

 けれども、あの時の恐ろしい出来事は鮮明に残っている。


 頭から離れなかった。

 次第に私は獣人を憎むようになり、そうして今に至るのだ。


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 獅子獣人のかなしみ

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 獅子のモンスターは絶句した。

 鷲のモンスターの苦しみが伝わって来たからである。

 獅子のモンスターは、鷲のモンスターのことを理解したいと思っていた。

 けれども今は違う。

 理解できないほどの、断絶がそこにある。

 獅子のモンスターは、もはやこの鷲のモンスターを倒すほかない。

 けれど、獅子のモンスターの銃口を持つ手は震えている。


 「お前、モンスターを狩るのは初めてだろ?

 「無理するな。最期にお前に共感してもらえて、嬉しかったよ」


 鷲のモンスターは、電波塔の上から仰向けにゆっくりと落下していった。


 その様子を獅子のモンスターはただ眺めることしかできない。


 獅子のモンスターは、鷲のモンスターの最期を見届けると不意に声が漏れた。

 「好きだったよ」と。

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