第47話 布団から出てこんやん

翌朝。

窓から差し込む光に目を細めながら、ハルキは寝返りを打った。

隣の布団は盛り上がったまま、もぞもぞと動いている。

「……おい、ミオ。もう朝やで」

声をかけても、返事はない。

ただ布団の中で小さく身じろぎする音がするだけだった。

「まさか、まだ寝とるんか?」

ハルキが首をかしげると、布団の中からか細い声が漏れた。

「……起きてるけど、出られない」


「なんでや」

「……昨日のこと思い出したら、顔合わせられない」

ハルキは思わず言葉を詰まらせた。

昨夜、布団に潜り込んできたミオの姿が脳裏に浮かぶ。

胸の奥がくすぐったくなるような感覚に、思わず頭をかいた。

「……そんなん気にせんでええやろ」

「気にするの! 私だって女の子なんだから!」

布団の中から聞こえる声は、普段の軽口とは違い、どこか必死だった。


そのとき、扉がノックもなく開いた。

「おはようございますわ」

カナメが涼しい顔で入ってくる。

「お、おはよう……」

ハルキが慌てて返すと、カナメはすぐに布団の山に目を留めた。

「まあまあ。朝から布団に潜り込んで出てこないなんて……ミオ、あなたらしくありませんわね」

「……放っといて」

布団の中からくぐもった声が返る。

「ふふ。昨夜、何かあったのでしょう?」

カナメは扇子で口元を隠しながら、意味ありげに笑った。


「ちょ、ちょっと待てや! 変な想像すんな!」

ハルキが慌てて手を振る。

「想像ではなく、観察ですわ」

カナメはさらりと返す。

「任谷さんの落ち着きのなさと、ミオの反応。……分かりやすいですわね」

「カナメ、ほんまやめてくれ!」

「やめませんわ。だって――」

カナメは布団に近づき、軽く叩いた。

「こうして隠れている姿、とても愛らしいですもの」

「……っ!」

布団の中でミオが小さく悲鳴を上げ、さらに深く潜り込んだ。


ハルキは頭を抱えながらも、口元に笑みを浮かべる。

「ほんま、オレの周りは落ち着かんやつばっかりやな……」

カナメは満足げに微笑み、布団の山を見下ろした。

「でも、それがあなたの幸せの証ですわ」

リビングに行く前から、朝はすでに騒がしく始まっていた。

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