第36話 セリナに先を越されて焦ってるんや

セリナ=フローレンスが「結納金」をにおわせるコメントを残し、さらに直接通話で“ご縁”を語った夜。

その様子を配信の裏で見ていた双子は、端末を閉じたあと、しばらく沈黙していた。

「……やばいね」

アオナが先に口を開いた。

「セリナ嬢、本気じゃん。あれ、もう宣戦布告でしょ」

「……そうね」

ピナは腕を組み、冷静に答える。

「結納金なんて、今では物語の中でしか出てこない古い言葉。

でも、あえてそれを使うことで“結婚”を強く印象づけた。

しかも、最高額ギフトを添えて」

「ずるいよね。あんなの、誰だって動揺するに決まってる」

アオナは唇を噛んだ。


「……で、どうするの?」

ピナが姉を見やる。

「決まってるでしょ。私たちも動く」

アオナは即答した。

「このまま黙ってたら、セリナに全部持ってかれる。

ハルくんは優しいから、押し切られたら断れないタイプだよ」

「……それは、わかる」

ピナは小さく頷いた。


「でも、私たちができるのは“金額”じゃない」

ピナは冷静に言葉を続ける。

「セリナは名家の力を背景にしている。

でも、私たちは“配信者”として、ハルくんと同じ舞台に立てる。

そこを活かすべき」

「……つまり?」

「彼と一緒に過ごす時間を増やす。

配信の外でも、自然に隣にいる存在になる。

それが、私たちの強み」


アオナはしばらく考え、やがて笑った。

「なるほどね。さすがピナ、頭いいなあ。

じゃあ、次の非公開セッション、こっちから提案しよっか。

“練習”って名目で、もっと長く一緒に話す」

「……いいと思う」

ピナも微笑んだ。

「それに、いずれは直接会う機会を作るべき。

セリナが訪問を仕掛けてくる前に、私たちが先に動く」

「よし、決まり!」

アオナは勢いよく立ち上がった。

「セリナに負けてらんない。ハルくんは……私たちだって、本気なんだから」


二人は視線を交わし、強く頷き合った。

姉は情熱で、妹は理性で。

方法は違えど、目指す先は同じ。

――任谷ハルキ。

セリナの影響で、双子の心にも火がついた。

そしてその火は、静かに、しかし確実に燃え広がっていくのだった。

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