第20話:新人商人市への道
「一週間で、一番の売り上げだと!? ふざけやがって!」
倉庫に戻ると、ギルが怒りを爆発させた。
「あのデブ、明らかに俺たちを潰す気だ! あんなの、できるわけがねえ!」
ダンの顔も、険しい。
「カイ、どうするんだ。俺たちには、店を出すための資金も、客を呼ぶためのノウハウもないぞ」
確かに、状況は圧倒的に不利だ。
だが、俺は介護士だ。限られたリソースの中で、最大限の結果を出すためのプランニングには慣れている。
「落ち着け、二人とも。やり方はある」
俺は、カイ・ファミリーとハイエナのメンバー全員を集め、作戦会議を開いた。
「まず、俺たちの強みと弱みを整理する。弱みは、金、人脈、経験がないこと。強みは、商品そのものの魅力と、俺たちの『マンパワー』だ」
俺は、大きな木の板に、俺たちの戦略を書き出していく。
「第一に、生産体制の確立。トムをリーダーとして、土器チームを再編成する。ろ過器と浄化石の量産体制を、三日で構築するんだ」
トムが、真剣な顔で頷く。
「第二に、マーケティング戦略。俺たちは、他の商人のように、立派な店構えはできない。だから、ゲリラ戦でいく」
俺は、ミアとハイエナの足の速いメンバーたちに目を向けた。
「ミア、お前たちには、宣伝部隊になってもらう。市場で、俺たちの商品の『実演販売』を行うんだ。汚れた水を、目の前できれいにして見せる。これ以上の宣伝はない」
「面白そうじゃん! やってやる!」
ミアが、目を輝かせる。
「第三に、営業戦略。ギル、お前とハイエナの連中には、客引きと、商品の運搬、そして警備を頼みたい。お前たちのいかつい見た目は、他の商人への牽制にもなる」
ギルは、ニヤリと笑った。
「おう、任せとけ。誰にも、俺たちのシマで好き勝手はさせねえ」
「そして、ダン。お前は、全体の統括と、金の管理を頼む。俺は、ザック隊長との交渉や、全体の戦略立案に集中する」
役割分担が、明確に示される。
一人ひとりが、自分のやるべきことを理解し、チームとして機能し始める。
「最後に、俺たちのコンセプトだ」
俺は、木の板の中央に、力強く書き記した。
「『安全な水を、すべての人に』。俺たちは、ただ物を売るんじゃない。スラムの子供たちが、王都の生活を豊かにするという『物語』を売るんだ」
子供たちのオーラが、燃え上がるような赤い情熱の色に変わっていく。
絶望的な挑戦。
だが、俺たちには、勝算があった。
前世で培ったプロジェクトマネジメントの知識と、この世界で得た仲間との絆。
その二つを武器に、俺たちは、新人商人市という戦場へと、殴り込みをかける。
カイ・ファミリーの、そしてスラムの未来を賭けた、七日間の戦いが始まった。
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