第16話:良心的な衛兵ザック

ボルコフたちが連行されていくと、倉庫には静寂が戻った。


俺たちとハイエナ、そしてザックと彼の部下たちという、奇妙な組み合わせだけが残される。


ギルは、まだ警戒を解かずに、ザックを睨みつけていた。


「…何のつもりだ、衛兵。俺たちをまとめて捕まえるってんなら、そうはいかねえぞ」


「そのつもりはない」


ザックは静かに首を振った。


「俺は、ボルコフのような人間が、衛兵の誇りを汚すのが許せないだけだ。俺たちの仕事は、無法者を取り締まることであって、弱者を虐げることじゃない」


その言葉に嘘はなかった。彼のオーラは、一点の曇りもない青色を保っている。


ザックは、俺の方に向き直った。


「君が、カイだな。君たちの活動については、聞いている」


「…俺たちが、何か問題でも?」


「いや、逆だ」


ザックは、俺たちの倉庫を見回した。その目には、ボルコフのような侮蔑ではなく、純粋な感心の光が宿っていた。


「衛生管理を徹底し、自分たちで道具を作り、食料を確保する。スラムの子供たちが、これほど組織的な共同体を作っているとは、信じがたい光景だ」


彼は、俺たちの土器を一つ手に取り、感心したように眺める。


「君は、一体何者なんだ?」


ザックの問いに、俺はどう答えるべきか迷った。


「…ただの、生き延びたいだけの子供ですよ」


「そうか…」


ザックはそれ以上、深くは追及しなかった。


「俺は、ザック・シュナイダー。この地区を担当する衛兵分隊の隊長だ。ボルコフの件では、迷惑をかけた」


彼は、スラムの子供である俺たちに、対等な立場で頭を下げた。


「今後、君たちの正当な活動に対して、衛兵が不当に介入することはないと約束しよう。むしろ、何か問題があれば、俺に相談してほしい。法と正義の範囲内でなら、力を貸せるかもしれない」


それは、信じられない申し出だった。


腐敗した権力という脅威が去り、代わりに、公的な権力という、新たな、そして強力な協力者が現れたのだ。


「…ありがとうございます、ザック隊長」


俺も、彼に対して、初めて敬意を込めて頭を下げた。


この出会いが、俺たちのカイ・ファミリーの運命を、そしてスラム全体の未来を、大きく変えていくことになる。


俺たちの生存戦略は、スラムという閉じた環境から、王都というより大きな社会構造へと接続する、新たなフェーズへと移行しようとしていた。

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