第13話:カイ・ファミリーとハイエナ

俺が倉庫に戻ると、ダンたちが心配そうな顔で駆け寄ってきた。


「カイ! 無事だったか!」

「ああ、問題ない。取引は成功だ」


俺は、ギルからもらった塩の袋を見せた。子供たちの間から、安堵と喜びの声が上がる。


「それだけじゃない。これからは、ハイエナが俺たちの『盾』になる」


「盾に…?」


「ああ。俺たちの安全を保障する代わりに、俺は彼らの怪我や病気を治療する。相互扶助の関係だ」


俺の言葉に、ダンは複雑な表情を浮かべた。


「…あいつらを、信用するのか?」


「信用じゃない。利害の一致だ。彼らには俺の治癒能力が必要で、俺たちには彼らの武力が必要だ。スラムで生き抜くには、それだけで十分な理由になる」


翌日から、俺たちの生活はまた大きく変わった。


ハイエナのメンバーが、見回りという名目で、俺たちの倉庫の周りをうろつくようになったのだ。

そのおかげで、これまで俺たちに絡んできた他の浮浪者や、たちの悪い連中がぱったりと姿を見せなくなった。


俺は、定期的にハイエナのアジトを訪れ、怪我人や病人の治療にあたった。

彼らの怪我は、喧嘩や事故によるものがほとんどだったが、中には栄養失調や不衛生な環境が原因の病人も多かった。


「ギル、お前たちも生活環境を改善しろ。病人を治しても、原因がなくならなきゃ意味がない」


俺は、ハイエナのメンバーにも、カイ・ファミリーで実践している衛生管理の知識を教え込んだ。

最初は面倒くさそうにしていた彼らも、実際に体調が良くなるのを実感すると、素直に俺の言うことを聞くようになった。


カイ・ファミリーとハイエナ。

知恵と武力。ケアと暴力。


水と油のように相容れないはずだった二つのグループは、カイという触媒を通じて、奇妙な共生関係を築き始めた。


トムが作った土器は、ハイエナを通じて市場の裏で売られ、俺たちは初めて「金」というものを手に入れた。

その金で、俺たちは塩だけでなく、薬草や、栄養のあるまともな食料を買うことができるようになった。


ミアの斥候能力は、ハイエナの暴力と組み合わさることで、より安全で大規模な物資調達を可能にした。


俺たちの組織は、日に日に力をつけ、スラムの中での存在感を増していく。


だが、それは同時に、新たな火種を生むことにも繋がっていた。


俺たちの急成長を、快く思わない者たちがいたのだ。


スラムを支配し、搾取することで成り立っている、より大きな存在。


その影が、俺たちのささやかな楽園に、静かに忍び寄っていた。v

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