転移魔法持ちの狙撃手~回帰したので、ちょっと異世界行って来ます~

信仙夜祭

第1話 プロローグ

「10秒後に、鉄飛竜20匹、鉄騎馬20匹が来ます!」


 司令部付きの〈未来視〉の情報に、各部隊が動く。

 司令官からは、何も連絡がこない。

 現場に任せるってことだろうな。

 もうこの戦場には、一騎当千しか残っていない。連携も取れてるし、『指示なし』は問題なしって意味だろう。

 ここで、『撤退』の指示がきたら、相当ヤバいのが来ることになるので、今日は安パイだな。


「俺は、鉄飛竜を狙います。鉄騎馬は、お願いします」


 司令部に、何時もの回答をする。

 分業は、決まっているんだ。


 鉄飛竜──飛行機とも戦闘機とも呼ばれる、空飛ぶ鉄のなにか。その総称。

 戦闘ヘリコプターと呼ばれる機体が、地上兵隊を蹂躙するので、見つけ次第落とす必要がある。


「ちっ……。ジェット機と呼ばれる速いタイプか」


 『次元の裂け目』──そこは、空間が異世界と繋がっていた。『迷宮ダンジョン』とか『ゲート』とか呼ぶ奴もいる。

 これも、敵兵の記憶を魔法で読んで得た知識だ。


 俺は、敵兵士から鹵獲したスナイパーライフル銃──〈バレットM82〉を構えた。


「魔力弾装填……。魔法陣並列起動。同時に10発ロックオン……」


 俺の背後に、魔法陣が多重展開される。壁のような数の魔法陣がそれぞれ展開され、魔力弾に効果を与えるんだ。

 まるで、ゲート・オブ・バ〇ロンだよ。(げふん、げふん)


 このスナイパーライフル銃は、引き金トリーガーでしかない。

 本来は、鉛弾を撃ち出すモノらしいが、俺は照準と魔力弾を撃ち出すために使っている。

 正直、杖よりも良く当たるので使いやすい。スコープは便利だ。


 ──カチ、カチ、カチ……ドドドドド


 トリガーを引くと魔力の塊が、発射される。俺は、属性変化などは使用せず、魔力をそのままを撃ち出す貫通力重視だ。


「F-15戦闘機だったかな。異世界人の言葉は、複数の言語が混ざり合いながら使われてて、覚えにくいんだよな」


 F-15が、加速に入ったら終わりだ。

 俺達が所属する帝国内に深く入り込まれてしまう。

 そして、ミサイルだ。都市を一発で壊滅させられかねない。


「まあ、各都市には、結界術師も配備されているだろうし、数機ぐらいなら大丈夫だろう」


 F-15が、加速を捨てて旋回に入った。俺の魔力弾を感知したようだ。


「悪いが、逃さないよ」


 魔力弾には、追尾機能も付与しているが、俺自身も操作できる。

 視認した相手には、必ず当たる。例え相手が、どんなスピードだろうとも、時間をかけて追い続ける。


 今日は快晴。視界を遮るモノもない。

 10発の魔力弾が追尾を続ける。


 F-15が……、次々に墜落して行った。


「最後の1機の墜落を確認。俺のノルマは、後10機かな? この後に、何が来るかによるな」


 地上では、鉄騎馬に攻撃手アタッカーが襲いかかっていた。


「90式とか10式とか呼ばれる戦車だな。あれが20機か。今日は……、多いな」


 昼も夜もなく、断続的に『次元の裂け目』から戦力が投入されている。

 機関銃を魔力障壁で防いでいるけど、攻撃手アタッカーに負傷者多数って感じだ。

 機関銃が相手でも、いなごのように襲いかかれば、物の数秒で無力化できる。

 度胸のない攻撃手アタッカーほど、先に死ぬ。


 戦車には、とにかく近づかないといけない。

 戦術は確立されていて、キャタピラと呼ばれる足を破壊してしまえばいい。

 それと、俺みたいな遠隔攻撃を主体にする魔力弾なんかには、特に強いことが知られているので、俺は地上戦では出番なしだ。

 爆発反応装甲(ERA)とかなんとか……。言葉が難しくて、俺は理解していない。

 戦車には撃たない……、それだけだ。


「戦車には、魔力を具現化した刃物だよね」


 鉄を切れるのであれば、形状は何でもいい。

 槍を用いて、隙間から運転手を攻撃してもいい。いや……上位攻撃手は、装甲ごと槍で貫いている。あれは、防ぎ様がないよね。

 キャタピラと砲塔を切ってから、解体する様に細切れにしても問題ない。

 最も怖いのが、戦槌だったな。中の人ごとグシャリだった。


「おっ……。一撃で10式戦車を真っ二つか。あの人は、流石だな」


 達人クラスになると、防御を任せて攻撃に専念すれば、一撃で終わらせられる。

 他には、魔術師系もいるな。秒でマイナス100度とかにしたら、流石の戦車も動かせないだろう。

 中の人が、なにもできないので可哀相だ。


「最前線に立つ魔術師って怖いよな。彼等が最強かもしれない」


 俺は、まだまだだ。

 撃墜数も、10位くらいだし。それでも、約7年で撃墜数は3000機を超えているんだけどね。上は、きりがない。万とかだし。

 観察していると、『次元の裂け目』に影が見えた。

 俺は、ライフル銃を構える。

 スコープから、影を確認する。


「ちっ。戦闘ヘリコプターのAH-64D型か……。瞬殺しないと、攻撃手アタッカー達からまた非難される」


 ──カチ、カチ、カチ


 引き金を引くと、魔力弾が射出される。狙いは、ローター部分だ。

 命中すると、回転しながら墜落する。そして、大爆発だ。


「大丈夫かな? 『次元の裂け目』から少し離れた場所に落ちたし……。地上の被害は少ないだろう」


 正直、墜落場所まではコントロールできない。


「まあ、中距離組がコントロールしてくれるだろう。それよりも、次だな」


 〈未来視〉の情報では、残り7機の筈だ。

 正直、この最前線で遠隔狙撃できるのは、俺しかいない。数キロメートルの射程を持つ狙撃手は俺だけなんだ。

 残らなかったというより、俺以外には誰も射程と命中を両立できなかった。

 他の狙撃手達は、街の防衛に下がってしまったんだ。


「昔、独占したのが良くなかったんだよな」


 自分の腕を自慢したくて、他人の獲物を奪ったら仕事を押し付けられた。

 承認欲求もほどほどにしないと、自分の首を絞めることになる。

 苦い思い出だ。


 次の、AH-64Dが出てきた。ここからでは狙えない位置に移動されてしまった。見られていそうだな。

 そして……、ミサイルが俺を襲ってきた!


「げっ! AGM-114K/LヘルファイアIIかよ! 狙われていたか!」


 俺は咄嗟に、〈転移〉を発動させた。瞬間移動だ。

 元いた場所から、『次元の裂け目』の反対側に移動したんだ。

 次の瞬間、俺の元いた位置が爆発した。

 森林火災になっているよ。


「……狙撃できる、高所がまた一つ潰されたか。まあ、土・水・風の属性魔法使いに、木を成長させてもらうか」


 俺は、スナイパーライフル銃を構えた。

 報復とばかりに、次々と落として行く。


 最後に戦車の砲撃がきたけど、また〈転移〉で避ける。

 そうすると、残った敵戦力は後退した。

 『次元の裂け目』に戻って行ったんだ。


 ちなみに、こちらの世界の住人が『次元の裂け目』に入ると、誰一人戻って来なかった。

 なので、『あちらの世界』の情報は、捕虜から得るしかない。

 だけど、異世界人は五体満足で投降する奴はいない。

 彼等も、それなりの矜持を持って異世界に来ているらしい。


「わずかに息のある者から、〈精神操作〉で情報を得る……。その情報からだけど、俺達とは全く違った世界なんだよな」


 魔力がなく、科学技術の発達した世界。

 俺達は、敵兵が残した戦利品から戦力を強化して行った。

 火薬を魔力で再現すれば、一応使える。俺が、魔力弾と呼んでいる弾だ。


「『次元の裂け目』が現れて、10年経過か……。もう、こっちの世界の方が、戦力的にかなり優位に立てている。だけど、異世界人の最終兵器は、まだ来ない。使うのに忌避感があるらしいし」



 その後、〈結界師〉が来た。高位の4人かな?

 空間的に、『次元の裂け目』を隔離するのだとか。ようやく、結界の魔法技術が確立されたらしい。

 俺も、〈空間魔導師〉に分類されるけど、系統が違うので詳細は分からない。瞬間移動専門だ。

 結界魔法は難しそうだ──それくらいしか理解していない。


 その後、『次元の裂け目』に結界が施された。



 こうして、10年に及ぶ防衛戦が終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る