第2話
はて、なぜこうなってしまったのか。冒険者たちと相対しながら、己の人生を振り返る。
取引先に謝罪に行った帰り、あまりの眠さに車を運転しているのにもかかわらず居眠りをしてしまったこと。
山道を走っていたためそのままガードレールを突き破り、高所から落ちたこと。
車が大炎上を起こし、そのまま圧死&爆死したこと。
俺が起こした事故に巻き込まれてしまった人がいないのが不幸中の幸いだ。
死後、青空と雲が広がっている空間へと渡る。すると天使らしき人物に地獄行きを宣告された。
だがその時、突然空間が割れ、そこから出てきた魔神に俺は連れて行かれてしまった。
いわく、俺の魂の耐久値は異常なほど高く、眷属作りの材料としてこの上なく良いらしい。ずっと前から死ぬその時を待っていたんだと。
そしてその後すぐに材料にされるかと思いきや、材料としての質を高めるため、1000年間刀で魔神に稽古をつけられた。
魔神も認めるほど強くなった所で色んな魔物と融合させられた俺は、ダンジョンの最奥へと放り込まれる。
そして現在に至るというわけだ。
閑話休題。意識を目の前の冒険者たちに戻す。可能なことなら戦わず逃げたい所だが、それは魔神から掛けられた”呪い”が許さない。
一つ、ダンジョンボスとしてダンジョンの最奥を守護すること。
二つ、ダンジョンから逃走禁止。
三つ、自殺禁止。
これらが魔神から掛けられた呪いの効果になる。よって、冒険者たちから逃げ出すことは出来ない。
はてさて、どうしたものか。化け物になったからといって人を殺したいわけではないし、ここは軽く戦って逃げてもらうとするか。
「......来ないのか?......来ない...なら..こちらから参る...!」
腰を落とし、柄を握る。一歩で数十m先の冒険者たちの前に出て、そして先ほどの赤髪の男を斬り、受け止められるがそのまま吹き飛ばす。
「ぐっ!速えぇ!」
相手が認識できるであろう速度で斬り掛かったので、当然受け止められる。というか受け止めてもらわないと人殺しになるので困る。
そのまま吹き飛ばされた男を追いかけ、態勢が整う間を与えることなく斬りつけていく。
「アカ兄!避けて!『アイス・ウェーブ』!」
そうやって赤髪の男と剣戟を繰り広げていると、突然横から波浪のような荒々しい氷が伸びてきて俺は周囲の地面ごと凍らされた。
氷が迫ってきた方向に目を向けると、黒いローブに身を包んだロリっ子が立っていた。
うーん、流石に子供は攻撃できない。しょうがないので空気が軽く揺れるくらいの殺気を向けるだけにしておくか。
「ヒッッ!、ブクブクブクッ.....」
哀れなことに少女は泡を吹いて倒れてしまった...。氷を純粋な筋力だけで割り抜け出すと、今度は残りの後衛職を気絶させるべく、一足で距離を詰める。
すると大盾を持った大男が俺と彼らの間に立ち、導線を塞いできた。
「鬱陶しい......!」
盾ごと吹き飛ばそうと刀を振ろうとしたが、背後へと回ったおそらく斥候職であろう少女の存在に気付き、刀を振る軌道を変える。首を狙うナイフに刀を沿わせ、手から弾き飛ばす。
「『ポイントチェンジ』!」
気絶させるために追撃を加えようとしたとき、先ほど味方にバフを掛けていた男が呪文を唱えた。次の瞬間、目の前の景色が変わった。
「......自分と相手の位置を入れ替える魔法か......」
単純だが厄介極まりない。ひょっとするとこの6人の中で一番危険なのはこいつかもな。
いい加減そろそろ撤退の判断をしてほしいので少し本気を見せることにした。
刀を横一文字に軽く振る。
「......刀剣魔法『
刀剣魔法、これは俺が魔神と戦うために生み出したオリジナル魔法だ。
人間の肉体で魔神と正面切ってやり合うのは厳しいと感じた時に、中遠距離の攻撃手段が欲しくて生み出した技だ。
ちなみに霧斬は今では刀を振らなくてもノーモーションで出せる、ジャブみたいな技だ。まぁそれだと格好付かないので今回は軽く振ることにした。
無数の
広間に次々と傷が付いていき、天井を支える四本ある支柱の内、一本が崩れてしまった。あれ?この技こんなに強かったっけ...?
「何よ...これ...」
「...!化け物が!」
おー、ビビってるビビってる笑。その調子で逃げ出してくれー。
そう思った時だった。残り三本の柱も浅い斬撃が幾つも刻まれたことで崩れてしまう。そしてすぐこの広間全体が突然揺れ始めたかと思うと、天井が崩落し始めた。
流石にやり過ぎた。まさかダンジョンがこんなに脆いとは...。冒険者たちが退却し始める。
「皆さん!こっちに来てください!帰還魔法を発動します!」
「待って!まだルーシーが気絶したままだよ!」
「時間がない...!、ルーシーちゃん...すまない...この責任は命をもって償う『ポータル起動。ポイントアジャスト!行先、冒険者ギルド新宿支店!』」
そう唱えた瞬間、冒険者たちを眩い光が覆い、そして消えた。...一人を残して。
俺はとりあえず崩落しそうな天井から逃げるため、先ほどのロリっ子、名をルーシーと言ったか。彼女を抱え広間を後にすることにした。
「こんなことなら普通に戦えば良かった...」
後悔先に立たず。皆、自分の力と回りの環境のことはちゃんと把握しようね!化け物との約束だよ!
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