第一季 後編
第8話 陽光
「珍しいな……もう起きたのか?」
急に声を掛けられ、陽斗は目を瞬かせて耳を澄ませる。いつの間にか二度寝していたようだが、先祖である
身を起こして大きく伸びをすると、着替えた後なのかはだけた夜着ではなく、深紅の長衣を纏い鞘に収めた剣を佩いている
「……
「ん…シャオさん、おはよう」
聞こえてきた声のする方向を見つめ、陽斗は眩しそうに
「おまえは何故、おれを知っている?…楽器の演奏ができる事も」
「うーん…俺が
「未来から来たと言うのか。証拠がない以上信じようがない」
「そうだよなぁ…ちょっと長くなるけど、全部本当のことだよ。俺は未来の貴方と出逢って、ここに来たんだ。俺も最初は信じられなかった。自分の祖先が仙人と仲良しで、一緒に封神台…『宙の泉』の監視をしてきたこと。先祖代々、
封神台、と言う単語に反応を見せたが、
「…はぁ…美味しいな、この水。ありがとう」
「この辺りは山の雪解け水が至る所に湧いていて豊富だからな。
「…それ、この人の…
「そうだ。何故おまえが奴の身体に居るのかは分からん。だが無下に追い出す訳にもいくまい。おまえが自分の生きていた場所に戻るまで、今はおれの傍にいればいい」
「……ほんとにいいの?」
「このまま捨て置くことはできないからな。陽斗が居なくなったあと、
予想外な言葉に陽斗はぽかんと口を開けて呆けたが、気を取り直し濡れた竹筒の底に映る自分の顔を窺う。二十代後半くらいの精悍な顔つきをした男で、寝ていたからなのか顎から口の周りに無精髭が生えている。黒々とした長い髪を降ろし、肌艶はそれなりに良く、唇はややかさついているが怪我人とは思えなかった。
「…全然俺に似てない…」
「ふん。…実際のおまえがどんな顔をしているかなどに興味はないが、さぞかし呑気な生活を送ってきたのだろうな。寝顔が隙だらけだったぞ」
「え⁉なっ、何で…?なんかした…?」
「ふ、さぁな。それよりも腹が減っただろう、朝餉を作ったから食え」
陽斗が横たわっていた場所から少しだけ離れた場所に、焚き火の小さな炎が見える。
「ご、ごめん…」
「…無理して歩くな、傷に障る。持って来るから待っていろ」
「はー……ほんとに優しいな、シャオさん…。それにしても、彼はなんでこんな傷を…」
「特別なことではない。知己を案ずるのは当然のことだ。それにその傷の理由を聞いたら、食欲を無くすぞ」
「…あまり深く聞かない方が良さそうだな」
「懸命な判断だ」
焚き火の傍で小さな鍋のようなものから器に何かが移され、湯気を立てているのが見える。仄かに匂う食欲をそそる香りは醤油に似た調味料の匂いで、空腹を感じた陽斗は素直に「美味そうだなぁ」と小さく呟いた。
「…
匙を添えた椀を両手で持ち、陽斗のすぐ傍に来た
「美味しそうな匂い…もしかして、お粥?」
「ああ…そうだが、何故分かった?」
「この辺りの朝ごはんはお粥か
「そうか…陽斗は思った以上に博学だな。口に合うかは分からんが、腹の足しにはなるだろう」
差し出された椀を両手で受けとり、右手で匙を持ち粥をかき混ぜる。もち米の他、干し肉を小さく千切ったものや青葱に似た香草、刻んだ生姜が入っており、匂いだけでなく見るからに美味そうだった。息を吹きかけて粗熱を取り、ひと口啜ると干し肉から沁み出ているうまみが粥に溶け込んでおり、やはり美味い。あっという間にたいらげ、おかわりを頼みたくなったくらいだ。
風邪を引いた時に母親がつくる真っ白な粥とは違い、味付けのされている褐色の粥を初めて食べ、陽斗は食文化の違いを改めて思い知らされた。
「シャオさん、料理上手なんだね?」
「旅をしていく中で自然と身に付いただけだ。作られたものを食べてばかりでは脂が多く、
「そっか。確かにあんたの料理、毎日でも食べていたくなる味だ」
「……」
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