5.5話「異世界事変 -愛と裏切り編」

◆ 揺れる心


「ケンタ殿……どうか、生き延びてほしい」

女王は夜更けの執務室で、彼の手を強く握りしめた。

その瞳には、国家元首の厳しさではなく、一人の女性の切実な想いが宿っていた。


ケンタは戸惑う。

「……女王様、俺は……」

「陛下」

と、その時。背後から声が割り込んだ。


振り返れば、修道女シェリル。

彼女は複雑な表情でケンタを見つめている。

「あなたを救うのは、この私です。命を懸けてでも……」

「シェリル……?」


女王とシェリル。

どちらの瞳も、彼だけを見ていた。



◆ 嫉妬の炎


その夜。

シェリルは一人、祈りの間で膝をついていた。


「神よ……なぜ、あの方は陛下を選ぶのでしょうか。

私ではなく……」


彼女の祈りはやがて歪み、呪いに近い言葉へと変わっていった。

「ならば……せめて、陛下だけは……」



◆ 陰謀の影


一方、宮廷では貴族たちが不穏な計画を立てていた。

「物流大臣を失脚させる好機だ。女王があの余所者に心を寄せている……」

「修道女も取り込め。愛憎ほど人を操りやすいものはない」


愛情と嫉妬、権力と陰謀――それらすべてが絡み合い、ケンタを中心に渦を巻いていく。



◆ ケンタの葛藤


夜、ケンタは独り言を漏らした。

「……なんで異世界に来てまで、恋愛修羅場に巻き込まれてんだよ。

物流と数字だけやらせてくれりゃいいのに……」


だが彼は知っていた。

もう誰かを選ばなければならない時が近づいていることを。


国を救うためか。

自分を救うためか。

そして――誰と共に生きるのか。


その選択は、世界の未来をも変えるものとなる。

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