奈落レイド:運営編

プロローグ:再び、奈落より

【任務提示】:運営フェーズの契約を締結せよ──報酬:定期収入


 あの「納品完了!」から、もう二ヶ月が経った。


 数週間後に沙耶から一度だけ連絡があったけど、

「次は運営が始まるから、またお願いしたいんだけど……」


 ──そんなふうに言われただけで、結局そのときは話がまとまらなかった。

 だから、てっきりこのまま流れるんだと思ってた。


 仕事は相変わらず続いていて、特別な出来事も、新しい依頼もない。

 ……ただ、妙に静かだった。


 その静けさが、不自然にすら感じられるような、そんなある日の午後。

 作業中のスマホが突然震えた。

 画面に表示された名前を見て、一瞬だけ、心臓が跳ね上がる。


 沙耶(着信)


 まるで、封印していた魔導書が、勝手にページをめくり出すような……そんな予感。

 まさか……いや、まさかな。


 通話ボタンを押すと、懐かしい声が耳に飛び込んできた。


「久しぶり。……元気だった?」

「うん、まあね。そっちは?」

「うん、私ね──もう辞めたの」


 ……えっ?

 奈落から脱出したの!?


「じゃあ、今回の話って──」

「ううん、私じゃなくて。次のプロジェクトマネージャー(PM)、田島くんが担当することになったの」


 田島。聞き慣れない名前だった。


 沙耶は、あくまで淡々とした口調で続ける。


「それでね、運営フェーズが始まるから、

 もう一度、相談に乗ってほしいって。

 ちゃんと新しいPMも同席するミーティング、設定するって」


 ──奈落、二周目突入。

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