第二十一話「王国の陰謀」
僕の奪還に失敗し、屈辱を味わったアレクシスは、静かに牙を研いでいた。
彼は故国に帰ると、僕のかつての婚約者候補であった王太子や、リリアナに心酔する貴族たちを言葉巧みに扇動し始めた。
「エリオットは、帝国の皇太子に無理やり連れ去られ、辱めを受けている!」
「彼は我々の助けを待っているのだ!」
もちろん、それは真っ赤な嘘だ。
しかし、プライドを傷つけられた者たちにとって、その嘘は帝国を攻撃するための格好の口実となった。
そして、その陰謀の中心には、聖女のように振る舞いながら、したたかに自分の立場を計算するヒロイン、リリアナの姿があった。
「可哀想なエリオット様……。彼を救うためなら、私、何でもしますわ!」
彼女は涙ながらにそう訴え、人々の同情と支持を集める。彼女の真の目的は、この騒動を利用して、自分の評価を上げ、王太子の寵愛を不動のものにすることだった。
アレクシスとリリアナは共謀し、さらに悪質な計画を企てていた。
それは、僕を利用して、両国間に決定的な亀裂を生じさせ、戦争の火種を熾すという、恐ろしい陰謀だった。
彼らは偽の手紙を捏造した。『帝国で虐待されている、助けてほしい』という、僕からの悲痛な手紙を。
それを王国中にばら撒き、民衆の反帝国感情を煽る。
さらにアレクシスは、帝国内部にいる反皇太子派の貴族とも密かに接触していた。ゼノンが僕にうつつを抜かし、国政を疎かにしていると不満を持つ者たちだ。
彼らは、内と外からゼノンを追い詰め、失脚させようと画策していた。
そんな恐ろしい陰謀が水面下で進んでいるとは露知らず、僕はゼノンとの愛に満たされた日々を過ごしていた。
しかし、忍び寄る不穏な影は、確実に僕たちの幸せを蝕もうとしていたのだ。
平和な日常の裏で、王国と帝国の関係は、日に日に悪化の一途をたどっていく。
やがて訪れる嵐の前の、つかの間の静けさだった。
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