第17話 領主さんを助けよう
「な、なにこれっ?」
姫篠さんも驚きの声上げる。
――それが魔物化生物じゃ。無闇に襲い掛かって来ようとしないところを見るに、それなりに知性がある。連れ去った領民の誰かじゃろうな。
「領民の人……」
魔法でこんな姿にしてしまうなんて……。
――胸のあたりに小さな印があるじゃろう? あれは体内に魔法を通す管のようなものでの。あそこから魔法を体内に通して身体を魔物化するんじゃ。
なんともエグイ方法である。
「あ、ねえ王子君、この人って昼間に連れて行かれたおじいさんじゃない?」
「えっ? あ……」
言われてみればあのおじいさんの面影があるような気がした。
「マオこれ……元に戻せないのかな?」
――可能じゃ。しかし戻すにはどのような構成で魔法が使われたのかを知らなければならん。魔物化魔法自体は難しいものではないが、魔法というのは使用者によって構成が違うからのう。
「そうなんだ」
思っていたよりも魔法とは複雑なもののようだ。
――うむ。まずはイーデリアから詳しい構成を聞き出すことじゃな。
「素直に言うかな?」
――まあ言わんじゃろうな。それならそれで方法はある。むしろそっちのほうが聞き出すよりも手っ取り早いの。
「わかった。とりあえずはガデットさんを探そう」
僕たちは牢屋を歩き回ってガデットさんを探す。
牢屋にはさっきのおじいさんと同じく、魔物化された人たちが多くいた。皆、なにかしらの虫みたいな姿になっており、見るに耐えなかった。
「こんなにたくさんの人が魔物にされてるなんて許せないね」
「うん」
いつもは温厚な姫篠さんから確かな怒りを感じた。
「ガデットさんはどこにいるんだろう?」
まさか魔物化をされてるんじゃ……。
そんな嫌な予感を頭に浮かべながら先を進む。
「――き、君たちは誰だ?」
「!?」
誰かに声をかけられ僕はビクリと身体を震わす。
まさか兵士に見つかった?
そう思った僕は、声のしたほうへ恐る恐る振り返る。
しかしそこにあったのは牢屋であった。
「君たちはイーデリアの配下じゃないのか? 誰だ?」
牢屋の中にいるのは20代くらいの若い男性だ。
魔物化はされていないようで、正気のようだった。
「あの……あなたは?」
「私はガデットだ。領主の息子と言ったほうがいいかもしれないが」
「あなたがガデットさんっ。よかった。僕たちはあなたを助け出しに来ました。補佐官のイーデリアを止めてもらうために」
「そうか……。けど、私は頭がおかしくなったとかいう理由でここに閉じ込められている。誰も私の言うことは聞いてくれないよ」
「そ、それじゃあどうすれば……」
「父の解毒ができればイーデリアを止められるんだけど……」
「解毒? 病気ではないんですか?」
「父はイーデリアに騙されて毒を飲まされたんだ。それで病気ってことにしてイーデリアは領地の支配権を握った。私のことは頭がおかしいってことにしてね」
「そうだったんですか……。その、解毒の方法ってわかりますか?」
「いや、それはわからない。少しずつ衰弱していく毒ということしか……」
解毒の方法がわからなければどうしようもない、
――領主のいる部屋へ連れて行け。わしの予想が確かなら、解毒することができるじゃろう。
「ほんと? じゃあ……」
――息子のことはあとでいい。牢屋の鍵を探すより先に領主を解毒して、イーデリアを止めるほうがよい。
「わかった。ガデットさん、もしかしたら解毒ができるかもしれないので、領主さんのいる部屋を教えてもらっていいですか?」
「あ、ああ。2階への階段を上って、すぐ前の部屋だ」
「わかりました。あとで助けに来ますのでもうしばらくここにいてください。行こう、姫篠さん」
「うん」
僕は姫篠さんを連れ、急いで領主の部屋へと向かった。
「あの部屋かな?」
階段を上ってすぐの2階に立派な扉の部屋を見つける。
ここが領主の部屋だなと思い、僕はそっと扉を開く。
……中は暗く、シンと静まり返っている。
「うう……」
そんな中、小さくうめき声が聞こえる。
「あそこのベッドに誰か寝てるみたい」
「ほんとだ」
姫篠さんの指差す方向にあるベッドへと、ゆっくりと近づいていく。
寝ているのは白髪のおじいさんだ。おじいさんは時折、うめき声を上げ、ただ寝ているというより、苦しくて起きられないという様子であった。
「この人が領主かなぁ? 枕もとに薬みたいな液体が入った瓶もあるし」
「うん。たぶんそうだと思う」
どんな病気かはわからないけど、とても苦しそうであった。
――その瓶を開けて中身をわしに嗅がせるのじゃ。
「あ、うん」
僕は瓶を開けて中身をマオに嗅がせる。
――ふむ、やはりか。
「やはりって?」
――薬ではあるが、少量の毒が混ぜてある。即効性は無いが、飲み続ければいずれ死に至る。
「どうしたら解毒できる?」
――うむ。この毒は血を減らして衰弱させるものじゃ。つまりは飲んだ毒を消すほどの勢いで血を回復させればよい。
「あ、それってあのキノコを食べさせれば……」
――あのキノコをひとつ食べさせるくらいでは毒までは消せん。30個ほどから抽出した濃度の高いエキスを飲ませるのじゃ。
「キノコ30個からエキスを抽出するってどうやって?」
――とりあえずはキノコを用意するのじゃ。
「うん。姫篠さん、あのキノコを30個出してくれる?」
「あ、うん。わかった」
アイテムボックスからドサっと30個のキノコが現れる。
――なにか器になるものも必要じゃな。
「器になるものって……あ、これでいいか」
枕元に置いてある花瓶を掴み、中身を取り出す。
――それを地面に置き、キノコを握り潰してエキスをそこへ溜めるのじゃ。
「キノコを握り潰してエキスを溜めろって……」
握力には自信無いんだけど……。
「握り潰すの? いいよ。わたしがやる。ふんっ!」
姫篠さんが両手でキノコを握り潰すと、指のあいだからエキスが出て来て花瓶へと滴り落ちていった。
「す、すごい力だね」
「わたしパワー型のデブだから」
「そ、そう」
次から次にキノコを握り潰し、やがて花瓶にはコップ1杯分くらいのエキスが溜まった。
――それを領主に飲ませるのじゃ。
「うん」
僕は花瓶を手に持ち、領主の鼻を摘まんでエキスを飲ませた。
「うう……ううっ!? ま、まっずーっ!!?」
領主は叫び声を上げて勢い良く身体を起こす。
「な、なんだこれは……? ひどくまずかった……。うん? けど、身体の具合は良いな。今まで苦しかったのが嘘みたいだ」
「よかった。毒が抜けたみたいですね」
「うん? 君たちは誰だ?」
「あ、はい。僕たちは……」
自分たちがここへ来た理由を僕は領主へ話す。
「……そうか。ガデットは頭がおかしくなって政務に携われる状態では無いとイーデリアから聞いたが、まさかそんなことになっていたとはな……」
「お願いします領主さん。イーデリアの横暴を止めてください。このままじゃ領民の人たちは……」
「わかっている。まったく自分が愚かしい。イーデリアを信じて、大勢の領民を苦しめてしまうとは……。すぐに奴を捕らよう。イーデリアはどこに?」
「たぶんまだ食堂です」
「よし」
ベッドから出た領主さんと一緒に、僕たちは食堂へ向かった。
「イーデリアっ!」
屋敷中にいた兵士を引き連れ食堂へ入った領主さんが大声を張る。
それに驚いたイーデリアが目を丸くしてこちらを見た。
――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
次回、領主の復活でイーデリアを追い詰める?
しかしイーデリアは余裕の表情で……。
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