第23話 魔法生物の登場
突然のことに言葉を失う。
まずは冷静になろう。
僕は今、仏美さんの胸に頭を抱かれている。
うん。間違い無い。
すごく柔らかくて気持ち良い。
いやそうじゃない!
「ちょっ!? ほ、仏美さんっ!?」
「聞こえるかなー? マオちゃんなんか言ってみてー」
――なんかと言われてものう。
「あ、聞こえたっ! 聞こえたよっ! 水白君っ!」
「おおう……あうう……」
さらにぎゅうぎゅうと胸に抱かれて、僕はもう意識がおっぱいだ。
このまま死んでもいいくらいにおっぱいだ。
「あ、ごめん。大丈夫?」
「う、うん。ありがとう、じゃなくて大丈夫。うん」
解放された僕はまだ夢見心地であった。
「い、いきなりその……胸に抱かれてびっくりした」
「あ、う、うん。手は繋いだことあったじゃん? 森で。あのときは聞こえなかったから、もっといっぱい肌を触れさせたほうがいいと思って……」
「そ、そっか。うん」
それなら他にも方法があったような……。
「もう1回聞いてみよ」
「うおおっ!?」
また大きな胸に頭を抱かれた僕は、座ってるけどある意味、直立不動であった。
――胸に頭を抱いて聞こえるなら手を繋ぐだけでもたいして変わらん。いろいろあってあのときよりも信頼が深まったんじゃろうな。
「あ、そうなんだ。じゃあどうしよう? 水白君はどっちがいい?」
「ど、どっちって……」
「だ、だからぁ、こうやって抱くのと手繋ぎ……どっちがいい?」
こうやって抱いてもらうほうがいいに決まってるじゃないか。
……なんて言ったら引かれるよなぁ。
「えっ? 別に引かないけど?」
「えっ?」
「なんかこうしてから水白君の声が頭に聞こえるんだよね」
「えーっ!?」
じゃあ今まで僕が考えてたことは全部、仏美さんに聞かれていたのか……。
――わしの声が聞こえるということは、わしを通してお前らも心の声を聞かせることができる。
「そ、そうなのかっ? 早く言ってよっ!」
心の声が仏美さんに筒抜けだなんて恥ずかしい。
――さらに信頼を深めれば触れていなくても声が聞こえるようになるぞ。
「へー。そうなったらおもしろいね水白君」
「う、うん」
僕の考えていることすべてが仏美さんに知られる。それって良いのか悪いのか、なんとも言えなかった。
「み、水白君って大きいおっぱいが好きなんだね。じゃあその……た、たまにこうやって抱いてあげようか?」
「い、いや、あのその……」
お願いします。
「心の声は正直だね。うん。じゃあたまにこうやって抱いてあげるね」
「……」
心が嘘を吐けないので、僕はもうなにも言わなかった。
「そういえば魔物とか出ないのかな? 出ると思ってわたし、戦う気でいたんだけど」
――馬車には魔物除けの宝珠が備え付けられておる。よっぽど強力な魔物でない限り、襲って来ることは無いじゃろう。
「じゃあ襲って来たらかなり強い魔物ってことだなんだね」
――うむ。まあ、襲って来たとしても馬車の御者は対抗手段を持っておるから心配せんでもいいじゃろう。
「対抗手段? それって……」
仏美さんがマオにそれを聞こうとしたとき、不意に馬車が止まる。
「あれ? どうしたんだろう?」
僕は先頭のほうへ行って御者の背中越しに前を見た。
「あっ!?」
馬車の行く手を数十匹の魔物が塞いでいる。
ゲームとかでよく見るゴブリンに似ている魔物だ。
「デモンか。おかしいな。あのくらいの魔物なら宝珠で寄って来ないはずなんだけど……。古いから壊れたかな?」
御者のおじさんは宝珠を持ち上げて眺める。
「だ、大丈夫そうですか?」
「ああ、あんなの魔法獣で軽く倒せるよ」
「魔法獣?」
「知らないのか? これだよ。見てな」
御者のおじさんは鞄からなにかを取り出す。
それは少し大きめのキューブだった。
「ほら行って来い」
そのキューブを地面へと投げる。と、
「あっ!」
キューブから鎧を着たトカゲの魔物と、杖を持ったネズミの魔物が現れた。
「あれって……」
「捕まえた魔物を魔法で改造してキューブに込める。それがあの魔法生物だよ」
「魔法生物……」
「戦いの心得が無い人はみんな護身用に持ってるよ。町や村の防衛にも使ってる。持ってないってことはお客さん、戦いに自信があるんだね」
「い、いや、そういうわけでも……」
そういうものがあるならどこかで手に入れておこうかな。
自分で戦うのはやっぱり怖いし、仏美さんを守るためにも必要かも。
そんなことを考える俺の目の前で、魔法生物たちは次々と魔物を倒していく。やがてあっという間に全滅させてしまった。
「わーすごいねー」
隣で仏美さんが拍手をする。
「あれわたしもほしいなー。どうやって作るんですか?」
「作る? 作るなんて簡単にはできないよ。魔法生物は高位の魔法基盤を持つ人じゃないと……うん?」
御者のおじさんが前方を見張る。
倒したはずので魔物たちが溶けるように大地へ吸い込まれ、
「わっ」
地面が大きく揺れ出す。
「ま、まさかあれは……」
「えっ?」
目の前の地面が盛り上がり、それが巨大な人型となっていく。
「ゴ、ゴーレムデモンだったのかっ!?」
「ゴーレムデモン?」
「ゴーレムデモンは死ぬと地面に身体を吸収させて、ゴーレムとして復活する魔物だ。死んで地面に吸収されたゴーレムデモンが多ければ多いほど強くなる」
「えっと……30匹くらいだったような」
「30匹はまずい……。グリーンドラゴン並みの強さになっているはずだ」
そのグリーンドラゴンがどのくらい強いのかはわからない。
しかしおじさんの焦りようから、あのゴーレムがかなり強いことはわかる。
「くそっ! だったら手持ちの魔法生物全部だっ!」
そう言っておじさんは魔法生物の入ったキューブをすべて投げた。
魔法生物は合計で20体ほど。数の上では有利だが……。
「ぜ、全然ダメだ……」
魔法生物の攻撃はゴーレムに一切のダメージを与えられていない。物理攻撃は弾かれ、魔法攻撃も効果無し。そして次々と魔法生物はゴーレムに倒されていった。
「おい御者っ! 大丈夫なのかっ?」
「ま、まさかあたしたちあれに殺されるんじゃ……」
今まで静観していた客たちだが、魔法生物の劣勢を見て焦りの声を上げ出す。
僕も同様に不安であった。けど、
「ま、まあマオの力を使えばなんとかなるか」
そう。僕にはあの力がある。
あの魔物に殺されるということは無いだろう。
――構わんが、一度使えばまた魔力を溜めねばならん。わしの魔力が無いあいだにまたあれクラスの魔物が現れたらそのときこそ死ぬぞ。
「そ、そうだけど……」
――あんなものはたいしたことない。自分だけの力でなんとかしてみよ。
「なんとかって……」
ゴーレムの大きさは3階建ての建物くらいある。
どう見てもなんとかなるような気がしないんですけど……。
そんなことを考えているうちに魔法生物は全滅してしまう。
「うわあああっ! 逃げろっ!」
客のひとりが叫びつつ、馬車の後部から外へ逃げ出す。……が、
「あ、ああ……」
背後にも大量のゴーレムデモンがわらわらといた。
前方にも大量に現れ、馬車は完全に囲まれる。
「も、もうダメだ……」
「いやーっ!!」
客たちが焦りを通り越してパニックになり始める。
「く、くそっ、みんなっ! 持ってる魔法生物を使うんだっ!」
「けど、勝てるわけ……」
「ただ殺されるよりはマシだっ!」
客たちは魔法生物が入った自前のキューブを馬車の後方から投げる。
しかし時間稼ぎくらいにしかならないだろう。
絶体絶命という状況だ。
こうなってしまうのは当然だった。
「や、やっぱりマオの力に頼ったほうが……」
「わたしが倒すっ!」
「って、えっ!?」
驚く僕の横から、仏美さんは馬車を飛び降りた。
――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
次回、強力な魔物に大苦戦?
新たな地で出会った厄介な魔物とは?
続きが気になる方はぜひフォローをよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます