赤ちゃんの力で覚醒。僕の中にいる魔王が目覚めたとき、最強の無双伝説が始まってしまう

渡 歩駆

第1話 クラス全員で魔界へ

「――お前はっ! いやあなた様はっ! 史上初めて魔界を統一し、魔界の頂点に立たれた魔王の中の魔王っ! ゴ、ゴドギア・グロウガデッド様っ!」


 大勢を苦しめた悪辣な女は、跪いた状態で喚くように言う。


 高い柱のような背丈。

 鋼のような筋骨隆々の肉体。

 そして他を威圧するようにそびえる額の黒い角。


 先ほどまでとは明らかに姿が変わった僕……俺は己の姿をじっと見下ろす。


「かつてそうであった者とでも言っておこう」

「い、いやっ! いやいやっ! そんなことはあり得ないっ! 初代魔王は何百年も前に死んだんだっ! お、お前がゴドギア・グロウガデット様であるはずがないっ!」

「ああ。今の俺は違う。しかし、この身体にある魂はそのゴドギア・グロウガデットのものだ」


 最強と讃えられた初代魔王、ゴドギア・グロウガデッド。

 その生まれ変わりであるという事実を俺は今、実感している。


 弱く地味だった俺の中にこんなものすごい力があるなんて、少し前には思いもしなかったことだ。魔界へ来るなんてことも、クラスメイトとともに授業を受けていたときには想像もしていなかった……。



 ◆◆◆



「おい地味王子、昼飯代貸してくれよ」


 そろそろ4時間目の授業が始まるというころに、僕はクラスメイトの男子、箱川亜乱はこがわあらんからそんなことを言われる。


「俺も」

「あたしもー」


 他にいる箱川の友人、緑山月光みどりやまげっこう諏訪絵帝すわえみかからも昼食代を要求される。


 地味王子とは僕のあだ名だ。名前が王子水白おうじみなしろで、見た目も性格も地味なので地味王子と呼ばれている。


「あ、う、うん。あの、今日はこれしか……」


 そう言って僕は財布から2千円を出して渡す。


「はあ? 2千円? 3人だぞ? こんなんで足りるかよ」

「けどこれしか……」

「うるせえっ! 隠してんだろてめえっ!」

「い、いや本当に……あっ」


 諏訪が僕の手から財布を奪い取る。


「あ、やっぱこいつまだ持ってたじゃん。しかも万札」

「そ、それは、買いたいものがあって……」

「黙れよ地味野郎。カスのくせに俺らを騙しやがって。こりゃお仕置きが必要だな」

「そ、そんな……」

「くっくっくっ……」

「ふふ」


 3人が嫌な笑みを俺へ向けてくる。


 また放課後に殴られる。

 憂鬱な気分が俺の胸を支配した。


「ローリングアターックっ!」

「は? うぎゃああっ!?」


 と、そのとき大きな肉塊……いや、前転が3人へ襲い掛かる。

 前転に襲われた3人はボーリングのピンみたいに倒れた。


「カツアゲなんてしちゃダメじゃんっ! わたしはから揚げ大好きですけどーっ! ぶほほーっ!」


 そう言って立ち上がったのはクラスメイトの姫篠仏美ひめしのほとみさんだ。

 長くて綺麗な金髪を伸ばした、アメリカ人のお母さんを持つぽっちゃりした女子である。


「て、てめえこの白ブタ姫っ!」


 名前が姫篠で、ぽっちゃりしているので箱川みたいな性格の悪い奴は白ブタ姫なんていうあだ名で呼んでいた。


「君らね、カツアゲするよりから揚げを食べなさい。から揚げのほうがおいしい」

「いや、意味わかんねーしっ!」

「そうだよっ! あたしらはあんたじゃなくてこいつに用が……あれ?」


 諏訪の手には僕から奪った財布と1万円が無かった。


「人からお金を盗るなんてダメよー。盗るならカロリーを摂りなさい。わたしは親から摂り過ぎって言われてますけどーっ! ぶほほーっ!」

「てめえ返せっ!」

「箱川君のじゃないでしょ? だから返さなーいっ!」


 大きな身体からは想像できない俊敏な動きで、姫篠さんは箱川の手をかわす。


「こ、この大仏女ーっ!」


 ちなみに大仏女とも呼ばれている。


「いいかげんにしねーと……」

「なにやってるんだっ!」


 そこへ精悍そうな声が飛んでくる。

 それは丁度今、教室へ入って来たクラス委員の男子生徒、剣崎十三雄けんざきとみおだった。


 剣崎君は責任感があり、イケメンなのでクラスの人気者だ。


「またやってるのあなたたちはっ!」


 一緒に入って来た女子のクラス委員、御子米奈みこめいなも僕たちのほうを見て声を上げた。


 御子さんも剣崎君に負けず劣らず責任感が強く、美人なので人気があった。


「お前ら、また王子を……」

「ちっ、なんでもねーよ」


 2人を見てバツの悪そうな表情をした箱川は、舌打ちをして自分の席へ戻って行く。仲間の2人も自分の席へ戻って行くが、箱川だけ振り返って僕を睨んだ。


 結局はあとで殴られるんだろうな……。


 それを考えると憂鬱な気持ちは変わらなかった。


「はいこれお金」

「あ、うん。その、ありがとう姫篠さん」

「なにが?」

「えっ? いや、あいつらから助けてくれて」

「友達を助けるのは当然じゃん。お礼なんていらないよ」

「姫篠さん……」


 姫篠さんはとても良い人だ。

 この高校に入ったころは友達がおらず、2年生になってもひとりぼっちだった僕に唯一、声をかけてくれたのはクラスメイトの姫篠さんだけである。

 

「なんか困ったことあったら言ってよ。力になるからさ。ダイエット以外はなんでも力になるから」

「うん。ありがとう。ダイエットの予定は無いから大丈夫だよ」


 みんな姫篠さんが太ってることを揶揄して大仏なんて言ったりするけど、僕は本当の意味で姫篠さんを大仏のように良い人だと思っている。


 しかしいつまでも姫篠さんの良心に甘えてばかりもいられない。

 姫篠さんに迷惑かけないためにも、もう少し強くならなければと思う。


「はーい。授業始めるよー」


 と、そこへ担任で英語教師の美壁霧歌みかべきりかが教室へ入って来る。


「あ、先生来ちゃった。お昼は一緒に食べようね。わたし、さっき菓子パン3つもたべちゃったけどーっ! ぶほほー!」

「う、うん」


 ちょっと変わった笑い声をしながら、姫篠さんは席へと戻った。


「それじゃ教科書の28ページを……えっ?」


 先生が驚いたような声を上げる。

 それもそのはず。教室にいたはずの僕たちが、いつの間にか知らない場所にいたのだから。


「ど、どこだここ?」


 クラス委員の剣崎君がイスから立ち上がって周囲を見回す。


 なんて言うか、古い西洋の城みたいな場所だ。地下なのか窓らしいものは無く、薄暗い空間の壁にはたいまつが掲げられていた。


「おいなんだどうなってんだ?」

「意味わかんねー。先生、なんだよこれ? どこここ?」

「わ、わたしに聞かれても……」


 クラスメイトが騒ぎ出すも、ここがどこなのかを先生は答えられない。先生も困惑しているようで、クラスメイト達と一緒に周囲を見ているだけだった。


 僕もどうしたらいいかわからず、ただただ周囲に首を巡らす。


 見えるのは僕たちを囲む壁。

 それとフードを被った奇妙な集団であった。


「ようこそ魔界へ。異界から来た魔王候補たちよ」


 集団のひとりがそう言うも、僕には意味がわからなかった。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 地味で目立たない高校2年生の王子水白が最強の魔王へと至るお話です。


 主人公無双、ヒロインとのラブもあります。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 平日は夜に投稿。

 土日祝は昼に投稿予定です。


 ※6話までは1日に2話投稿いたします。

  以降は毎日投稿の予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る