43話

2人はイタリアンレストランで夕食を済ませ、そのまま増渕の住むマンションへと流れ込んだ。


「ねえ。」


「何?」


「ありがとう。」


「どうしたの、急に。」


増渕が尋ねた。


「今、とっても楽しんだよ。毎日が。」


「それは良かった。ねえ、私がいるから?」


「その通りだよ。奈々さんがいるからだ。」


2人は唇を重ね、手を絡ませる。


「明日は記念日だ。仕事も休みだし、ずっと2人でいよう。」


そう言うと、高島俊輔は彼女の頭を撫でた。




「あのさあ、姉さんに相談があるんだけど。」


紺野真尋の住むアパートに、高島の姿はあった。


「何?」


「一体どんな風にプロポーズされたい?」


「プロポーズ?」


紺野は思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。


「どういう事?よく分からない。」


「だから、プロポーズだよ。」


高島は意気揚々に答えた。


「俊輔、結婚するの?」


「うん。しようと思って。」


「彼女がいるのは知っていたけど、まさかそこまで進んでいたとは。」


「もう社会人だし、タイミングが合えばOKでしょ?」


「それはそうだけど。あなた今いくつだっけ。」


「24。」


「早くないかしら。」


「結婚平均年齢で見たら早いかもね。で、どうなの?どんなプロポーズがいい?」


「知らないわよ。私に聞かないで。」


「告白された事とかないの?」


「告白とプロポーズは違うでしょう。」


紺野が高島を軽くあしらう。


「姉さんはモテると思ったから聞いたのに。」


「結婚はした事ない。」


「そっか。姉さんはレズビアンか。」


「バイセクシャルよ。一緒にしないで。」


「ごめん。」


「とにかくタイミングじゃないかしら。場所よりも大切なのは。」


「タイミングか。」


「それはまあ確かに場所も大切だろうけど、結婚しても良いと思っている人なら、タイミングさえ合えば何処でも良いんじゃないの?」


「何か適当に言ってない?」


「言ってない。」


紺野は慌てるように水を飲んだ。




光星小学校3年4組の担任教師であった高島は、その日も教室で国語の授業を行なっていた。


「では、この主人公の気持ちを考えてみましょう。ゆういち君は、自分が書いた絵を友達に馬鹿にされて、悲しい気持ちになってしまいました。でも、不思議なクレヨンを拾って、書いた絵がキラキラと光るようになりました。」


児童達が熱心に高島の話を聞いている。


「馬鹿にした友達が謝ってきて、ゆういち君はどんな気持ちになったでしょうか。分かる人はいますか?」


何人かの児童が手を上げる。


「では、宮本さん。」


「嬉しい気持ちになったと思います。」 


「はい、ありがとうございます。宮本さんの言う通りですね。謝ってきてくれて、ゆういち君はきっと嬉しかったと思います。他にいますか?では、上野さん。」


「えっと、怒ったと思います。」


「ありがとうございます。宮本さんは何故ゆういち君が怒ったと思ったんですか?」


「自分の事を馬鹿にしてきたのに、絵が光るからってゆういち君に行くのは、何か違うと思いました。」


「素晴らしい意見です。そうですね。謝られたからといって、自分が感じた悲しい気持ちや、怒る気持ちが無くなったり、減ったりする訳ではないかもしれませんよね。」




「高島先生、大丈夫ですか?」


職員室に戻った高島は、隣のデスクに座る大塚教師に話し掛けられた。


「困ってる事とかないですか?まだ慣れないでしょう、教師という仕事。私なんか10年以上は教師してますけど、全然慣れないですよ。」


「そんな、大丈夫です。聞き分けのいいクラスで助かってます。」


「ほら、今の教師の仕事ってブラックなイメージが強いじゃないですか。私嫌なんですよ、そう思われるの。」


「子供相手で大変ですけど、やりがいを感じますよ。」


「そうですか。やっぱり若いっていいですね。」


「いやいや、そんな。」


「そう言えば全然関係ない話なんですけど、高島先生知ってます?この小学校、幽霊が出るらしいですよ。」


「幽霊、ですか?」


「そうなんです。誰が言い出しのか、分からないんですけどね。出るらしいですよ、侍の霊が。」


「へえ。侍ですか。」


「信じてませんね。」


「すみません。そういう訳では。」


「いいんです、いいんです。侍って何だよって感じですよね。」


「ちなみにその侍は何処に出るんですか?」


「噂では、校庭に出るらしいですよ。」


「校庭ですか。」


「一体誰が言い出したんですかね、こんな話。」


そう言うと大塚は立ち上がり、何処かへ行ってしまった。


「校庭か。あながち間違いじゃない。」


高島は1人呟いた。




その夜、増渕からの連絡で、高島のテンションは上がった。


『明日、家に泊まってもいい?』


『もちろん。夕飯も家で食べる?』


『良いならそうしたい!』


高島は笑顔でメッセージを送った。彼女と出会ってから、高島は毎日が楽しかった。


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