第9話「冒険者ギルドと初めての依頼」

 大都市グランベリア――。


 初めてその巨大な城門をくぐったとき、俺は圧倒されていた。

 石畳の広い道、両脇に並ぶ商店、行き交う馬車と人々。村とは桁違いの活気に、まるで別世界に来たような感覚を覚える。


「ようこそ、都会の喧騒へってやつだな」

 隣でカイルが笑う。彼は完全に慣れた様子で人混みをすり抜けていく。


「まずは宿を取るか?」

 俺が言うと、カイルは首を横に振った。


「いや、先にギルドだ。あそこで登録しねえと、宿代も稼げねえしな」


 なるほど。冒険者になるにはギルド登録が必須。ここから俺の本格的な旅が始まるわけだ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ギルドは大きな石造りの建物だった。

 扉を開けると中は酒場のように賑やかで、剣や鎧を身に着けた冒険者たちが談笑している。


 受付に近づくと、赤い制服を着た女性がにこやかに微笑んだ。

「ようこそ、グランベリア冒険者ギルドへ。登録ですか?」


 俺はうなずき、身分証明の代わりに村の長老が書いてくれた紹介状を差し出した。


 登録の手続きは意外と簡単だった。名前や年齢を伝え、魔力と身体能力の簡単な計測を受ける。結果、俺の評価は平均的な戦士よりやや上。だが「潜在魔力の数値が高い」と記録員がざわめいていたのが気になった。


「登録完了です。こちらがギルドカードになります」


 金属製のカードを受け取ると、胸が高鳴った。これで正式に冒険者の仲間入りだ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さてと、初依頼はどうする?」

 カイルが壁に貼られた依頼票を眺める。そこには魔物討伐、薬草採取、護衛任務など多種多様な依頼が並んでいた。


「最初は無難なやつがいいな」

 俺がそう言うと、カイルは一枚の依頼を指差した。


『街道沿いの森に出るゴブリン退治・報酬金貨5枚』


「これだな。初心者向けだが、油断すれば命取りになる」


 受付で依頼を受け、俺たちは街を後にした。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 街道沿いの森に入ると、空気が一変した。昼でも木々が陽光を遮り、薄暗い。


「ゴブリンは集団で動く。声を出さずにいけ」

 カイルが小声で言い、双剣を構えた。


 しばらく進むと、かすかな笑い声のようなものが聞こえた。


「グギギ……」


 茂みの向こうに緑色の小柄な影。ゴブリンだ。しかも五体。


「合図したら突っ込むぞ」


 カイルが手を振り下ろした瞬間、俺たちは一斉に飛び出した。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 初めての実戦。俺は心臓が高鳴るのを感じながら剣を振るった。


 一体目が振り下ろした棍棒をかわし、反撃の一撃で肩口を切り裂く。悲鳴が上がり、ゴブリンが倒れる。


 カイルは二体同時に相手をし、流れるような動きで首筋を切り裂いた。さすが経験者だ。


 だが残り二体が俺に向かって突進してくる。

「くっ……!」


 その瞬間、体の奥から熱い力がこみ上げ、剣が蒼い光を放った。


 一閃――。


 光の軌跡が森を裂き、ゴブリンたちをまとめて吹き飛ばした。


「な、なんだ今の……!」

 カイルが目を見開いている。俺自身も驚いていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 戦いが終わり、ゴブリンの死体を確認すると、依頼に必要な証拠――耳を切り取り、袋に収める。これを持ち帰れば報酬がもらえるらしい。


「お前……やっぱ只者じゃねえな。あの光、前にも出たことあるのか?」


 俺は正直にうなずいた。村で魔王軍の斥候と戦ったときも、同じように力が溢れたことを話す。


 カイルはしばらく考え込み、やがて笑った。

「面白え。ますますお前と一緒に旅するのが楽しみになってきた」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 街に戻り、依頼の証拠をギルドに提出すると、報酬の金貨5枚が渡された。


 受付嬢がにこやかに言う。

「初依頼達成おめでとうございます。こちらが冒険者ランクDへの昇格証です」


 どうやら討伐数や実力を評価され、俺は最初のランクアップを果たしたらしい。


 ギルドを出ると、夕焼けが街を黄金色に染めていた。

 カイルが肩をすくめる。

「今日は宿で祝杯だな」


 俺はギルドカードを握りしめながら、心の中で誓った。


 ――もっと強くなってみせる。

 魔王軍が迫る前に、この力を完全に使いこなしてみせる――。


 夕陽の中、俺たちは酒場の灯りへと歩いていった。

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