最弱勇者の成り上がり譚 ~追放されたけど、気づいたら世界最強でした~

@keta3

第1話「異世界召喚と最弱の勇者」

 ――まぶしい光が、視界を埋め尽くした。


「うっ……!」

 思わず目を閉じ、手で顔を覆った。さっきまで俺、天城悠(あまぎゆう)は大学のキャンパスで、友人とコンビニ弁当を食べていたはずだ。それが今、光の渦の中に立っている。


 光が収まると、そこは見たこともない場所だった。


 天井は驚くほど高く、白い大理石の柱が整然と並ぶ。壁には巨大なステンドグラス。赤絨毯が敷かれ、空気には微かに香の匂いが漂う。


 ――まるでゲームや映画に出てくる王城の謁見の間だ。


 だがこれは現実。足元には影が落ち、冷たい石の感触が伝わってくる。


「……どこだ、ここ」

 思わず声が漏れた。


 その瞬間、整列した鎧の兵士たちが一斉に片膝をついた。金属の擦れる音が広間に響き、緊張感が走る。

 その奥に立つ、豪華な衣装を身にまとった中年の男――恐らく国王――が威厳を漂わせながら歩み寄った。


「勇者様……ようこそ、アルディナ王国へ」


 勇者?


 いやいや、待て待て待て。俺はただの大学生、特技はバイトとスマホゲーム。勇者なんて柄じゃない。


「あなたは……誰ですか? ここは一体……」

 俺が問いかけると、国王の隣に白髪の老人が前に進み出た。長いローブを着た、いかにも賢者然とした男だ。


「我らがこの世界を救うため、異界より召喚した勇者様です。どうか、魔王討伐のためにお力をお貸しください」


 召喚、魔王討伐。

 ラノベやゲームでよく見る単語が、現実に飛び出してきた。

 だが俺はそんなものに選ばれる人間じゃない。


「いや、俺、そんな力ありませんよ? 無理ですって」


 焦る俺に、賢者はにっこりと笑い、杖を掲げた。すると俺の目の前に光の板――ゲームのステータス画面のようなウィンドウが浮かび上がった。


 ――天城悠 Lv1 HP:20 MP:3 筋力:5 魔力:1


 ……嘘だろ。


「おいおい……弱すぎじゃね?」

 兵士の一人がぽつりと呟いた声が、広間に響いた。


 国王の顔が険しくなり、賢者も困惑の表情を隠せない。


「こ、これは……勇者様、もしかして力を隠しておられるのでは?」

「いや、隠してないです! 本当にこの通りです!」


 必死に否定する俺をよそに、兵士たちの間に失望の声が広がる。


「これじゃ、とても魔王と戦えないな……」

「勇者召喚が失敗するとは……」


 国王は玉座に戻ると、低い声で告げた。


「……勇者殿。我が国は今、魔王軍との戦いに敗北を重ね、滅亡の危機に瀕している。だが、この力では……」


 ――つまり、戦力外通告。


 俺は何も言えず、ただ立ち尽くした。

 そのまま城門に向かい、追放同然に荒野へ放り出される。


「ちょ、ちょっと待て! 俺どうすれば――」

 だが兵士たちは振り返らず、門を閉ざした。

 こうして、俺の異世界生活は最悪の形で幕を開けた。


 三日後。水も食料も底を尽き、足取りはふらふらだ。

 死ぬかもしれないと本気で思ったとき、ようやく小さな村が見えた。煙突から煙が上がり、人の気配がある。


「た、助かった……」


 村に入ると怪訝そうな目で見られた。よそ者は珍しいらしい。

 その中で、一人の少女が駆け寄ってきた。栗色の髪を三つ編みにし、瞳は澄んだ緑色。


「お兄ちゃん、大丈夫? 顔色が真っ青だよ!」


 少女・ミリアは俺を家に招き、水とパンを分けてくれた。


「ありがとう……命の恩人だ」

「お礼なら、村を守る手伝いをしてよ。最近、盗賊団が近くに出るんだ」


 村には元冒険者の老人・グランもいて、俺を見て首をかしげた。


「ひ弱な若造だが……鍛えれば多少はマシになるか」


 こうして俺は村で居候し、剣術や基礎魔法を学ぶことになった。


 数日後、初めての魔獣討伐――スライム討伐に挑むことになった。


「ひぃぃぃ……近寄ってきた!」


 ぬるぬるした青い塊が跳ねるたび、背筋が凍る。

「落ち着け! 狙いを定めて突け!」


 グランの怒鳴り声に背中を押され、俺は剣を握りしめる。


 ――ザシュッ!


 スライムは霧散し、残ったのは淡い魔石だけだった。

「……倒した?」

 ミリアが拍手する。「やったじゃない!」


 初めての勝利。心臓はバクバクだが、どこか嬉しかった。


 しかし平和は長く続かない。村の偵察隊が、盗賊団が接近していると報告してきたのだ。


「避難の準備を!」


 村人たちが慌ただしく動く中、俺は一人、剣を磨いていた。

 足は震えている。怖い。でも――


「俺がやる。今度は逃げない」


 居場所を守るため、俺は戦うと決めた。

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