君が好き

「可愛い…こと…?」


「あぁもう、今の瞬さんは何言っても可愛いですね。俺の理性が壊れる前に黙ってもらっていいですか?」


(なんだよ、俺が可愛いって…)


諒真が変なことを言っている。俺が可愛いとか、理性が壊れるとか。


(なんか、俺に都合のいいこと言ってない?)


もしかして、諒真が好きすぎてついに幻聴が聞こえるようになってしまったのだろうか。それとも、本当に俺の事そういう風に思ってくれてるのだろうか。


「諒真、俺のこと好きなの?」


それを聞いた諒真は黙り込んでいる。俺は何を聞いてるんだろう。諒真を困らせてしまった。


「あ…いや…なんでもないから、答えなくていいよ」


俺がそう言うと、諒真は俺の目をまっすぐ見て言う。


「もし好きって言ったら、瞬さんどうします?」


諒真が好きって言ってくれたら。そんなの、嬉しいに決まっている。


「嬉しい。俺も好きだから、嬉しい」


俺が微笑んてそう言うと、突如諒真の唇が俺の口に触れる。


(...!)


そして唇が離れると、諒真は俺の頭を撫でながら言う。


「俺も、瞬さんのこと好きですよ」


そう言って微笑んだ後、再び諒真の唇が触れる。何度か唇が重なった後、深いキスに変わる。しばらく続けた後、諒真は顔を離し、俺の目をじっと見る。


「瞬さん、本当に俺の事好きですか?もしかして、酔って誰でもいいから甘えてるんですか?」


諒真のその言葉を俺は慌てて否定する。


「違う。ほんとに…好き…」


「俺の事が?」


「ん…諒真のこと、すきっ」


俺がそう言うと諒真は嬉しそうに笑う。


「ならよかったです」


諒真の笑顔を見て、俺も自然と笑顔になる。

すると、さっきまでの笑顔が嘘かのように諒真は真剣な顔で俺を見る。


「酔ってる瞬さんには手出さない方がいいかなって思ったんですけど、今の瞬さん可愛すぎるので、俺我慢できなくなっちゃいました」


そう言って諒真は俺の目をまっすぐ見る。


「瞬さん、ベットに連れてってもいいですか?」


「ん…いいよ」


俺がそう答えると、諒真は俺を抱えて立ち上がる。そしてそのまま、諒真の部屋のベットへ連れてかれた。

俺をベッドに寝かせた諒真は、俺の上に覆い被さる。

俺の口元に諒真の口が近づくのに気づき、俺はギュッと目をつぶる。キスをするのかと思ったが、何も起こらず数秒経つ。不思議に重い目を開けた瞬間、諒真がふふっと笑う。


「ほんと可愛いですね。本当はめちゃくちゃにしたいですけど、優しくするので大丈夫ですよ」


そういった後、諒真の口が再び俺の口に近づく。俺がもう一度目を瞑ると、俺の口に諒真の唇が触れた。

次の日、遠くから聞こえるアラームの音で目が覚める。すると、目の前には裸で寝ている諒真がいた。そして俺も裸だ。俺は理解が出来ず、昨日のことを思い出そうとしたが、なんだかすごく頭が痛い。そして体のあちこちが痛い。

すると、アラームの音で目が覚めたのか、諒真の目がパッと開く。諒真は俺を見てニコッと笑った。


「おはようございます。瞬さん」


「うん、おはよう…」


「どうしたんですか?そんな可愛い顔して」


「えっ?」


(今、可愛いって言った?)


(そういえば昨日も言われた気がする…)


「瞬さん、もしかして昨日のこと覚えてないんですか?」


昨日のこと。昨日は土岐さんに恋愛相談して、お酒を…。そうだ、お酒を沢山飲んで酔ったんだ。それから店に諒真が来て、家に帰って…。

昨日のことを思い出し俺は全身が熱くなる。


「瞬さん、顔真っ赤。昨日のこと思い出したんですね」


そう言ってニヤニヤする諒真を前に俺は何も言えずにいる。


「俺たち両想いだし、付き合っちゃいます?」


「はっ!?」


驚いてそう言うと、諒真は不思議そうにする。


「どうしたんですか?そんなに驚いて」


「り、両想いって…俺は別に諒真のことなんか…」


「俺の事なんか、なんです?」


「…好きじゃない」


俺がそう言うと、諒真は悲しそうな顔をする。


「昨日あんなに俺の事好きって言ってたのに嘘だったんですか?」


「いや、嘘じゃない…けど…」


「けど?」


「好きじゃないもん…」


そう言う俺を見て諒真はクスッと笑う。


「そうですか。俺の事好きなんですね」


「違うって!好きじゃ…」


そこで俺の頭に激痛が走る。


「痛っ…」


そう言いながら頭を抑える俺を諒真は心配そうに見る。


「瞬さん、二日酔いじゃないですか?」


「うん…多分…」


「今日は休みましょ?俺が看病しますから」


「でも大学…」


「大丈夫です。今日は土曜日なので。授業ないですよ」


そう言って諒真は俺の頭を撫でる。


「じゃあ…お願いします…」


「はい、任せてください。」


そう言って諒真は起き上がる。


「あ、服持ってきますね」


「うん、ありがとう」


「あぁ、それと、バイト先の先輩にお礼言ってあげてください。昨日連絡してくれたの、その人なんで」


「わかった。ありがとう」


(土岐さんが連絡してくれたのか…)


休みの連絡もしなきゃいけないので、俺は土岐さんに電話をした。3コールほど鳴って、電話が繋がる。


『もしもし』


「あ、もしもし。実は昨日お酒飲みすぎたせいで二日酔いになっちゃって…バイト休んでも大丈夫ですかね」


『結構飲んでましたもんね。大丈夫ですよ。父に伝えときます』


「すみません。ありがとうございます。それと、昨日も色々すみません…」


『気にしないでください。相談乗るって言ったの俺だし、お酒勧めたのも俺なので』


「いえ、土岐さんは悪くないですよ。また今度お礼させてください」


『じゃあ、なにか困ったことがあったら葉山さんに相談しようかな。そろそろ切りますね。お大事に』


「ありがとうございます。失礼いたします」


俺が電話を切ると、すぐに諒真が入ってくる。


「お礼って何するんです?」


「え?何するって…困ったことがあったら相談するって言ってたかな」


「そうですか」


笑顔でそういった後、諒真は俺に服を渡してくれる。その服を見て、俺は思わず笑みがこぼれる。


「やった。今回はちっちゃいクマの方だ」


そう。これはあの日諒真が着ていた、胸元にクマのイラストがついている服だ。

俺がニコニコしながら服を見ていると、諒真は俺の顔を覗き込む。


「俺の事もそういう顔で見てくれません?」

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