第2話 HE CAME AGAIN

——チリリン


 古風な鈴の音が鳴って、ドアが開いた。


「いらっしゃい」


 洒落た帽子を被った男は、静かにカウンターに座ると、


「アイスコーヒーを」


 そう注文した。


 その時私は気づいた。男は、先日の男たちのリーダー格の男じゃないか。しかし、今日は誰も連れていない。


 レオンは気づいているのかいないのか、ただ微笑んでアイスコーヒーをその男に出した。薄暗いカフェの中にはレオンの好きなジャズが流れ、レオンの作業の音がそのジャズとともに、なんとも言えない心地よい雰囲気を作り出している。


「あんたは」


 突然、その男がレオンに声をかける。


「アイスコーヒー、好きか」


 ぽつりと、そう尋ねた。


「好きですが、大好物というわけでは」


 レオンは答える。


「ああ、俺もだ」


 男が頷き、そう言ったきり、押し黙った。今日は何事も起こりそうにない。そう感じた私は少しうたた寝しようかといつものラグでゴロンと横になった。今日は男の雰囲気が何か違う。タバコを口に咥えて、差し出されたコーヒーを飲まずに、ただマドラーで掻き回している。


「俺はタバコも酒も好きじゃないんだ」


 唐突に男が言った。


「でも仕方ないんだ。何かに溺れてないと。…思い出しちまうのさ」


 アイスコーヒーを変わらず掻き回しながら、男は言った。


「何をですか」


 レオンが尋ねる。


「…15年前の、ことをさ」


 そこで男は一度口をつぐみ、決意したように言った。


「あれは俺が、12歳の頃だった——」

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