第1話 A LADY WITH A BOOK

——チリリン。


 古風な鈴の音が鳴って、誰かが店に入ってきた。私はお気に入りのラグの上でそれを見つめる。入ってきたのは七十代半ばくらいだろうか、初老の女性だ。彼女が来るのは今日が初めてではない。いつもこのくらいの時間に来て、二時間ほど本を読んで帰っていく。毎日ではないが、週に二、三日はきているのではないだろうか。彼女は上品で一昔前に流行ったであろうワンピースを優雅にひらめかせながら、いつもの席に座った。


「いつものをお願いするわ」


 席に来たレオンに彼女はそう告げる。レオンはただ静かに頷き、カウンターへ戻っていった。


 私は彼女を観察する。今読んでいるのは確か、「亡命」。どんな内容なのだろうと想像するが、人間の考えることは到底わかり得ないのだから、途中で考えるのを諦める。先日来たときは三分の一程のところであっただろうか、そこまで読み、深いため息をついていた。そのまま本を閉じた彼女は、静かに帰っていったのだった。何か物悲しい話なのだろう。おそらく戦争にまつわるものの。私は、初めて彼女がこの店を訪れた時のことを思い浮かべた。

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