第一章第3話 青白い揺らめきの前で
「タケル……今のは、いったい何をしたんだよ?」
そう、もう秘密にしておく必要はない。最初の実験に偶然とはいえ良太が居合わせたのも何かの巡り合わせとさえ感じられた。
恐る恐る近づいてくる良太に私は拾った棒で地面に二点を描きながら静かに説明を始めた。
「僕は二つの地点を瞬時に移動できる仕組み、『ワープゲート』と呼んでいる。」
「普通なら、この二点を結ぶには、こうして線をたどるしかない」
直線を引いて見せる。
「でも、僕の方法は違うんだ」
棒を一度離し、両手で見えない紙を折りたたむように動かした。
「紙を折れば、離れた二点が重なる。そこに穴を開ければ、一瞬で通り抜けられる」
良太は眉をひそめ、首を傾げた。
「つまり、トンネルの中に別の道を作ったってことか?」
「ホーキング博士もワームホールを通じた移動の可能性を議論されている。それはあくまでも理論上の話だが、実際に装置で実証できた……と思う。」
良太はぽかんと口を開けた。
「なんか難しくてよく分からん。でも、これがワープゲート……」
「……すごいな。本当に、どこかにつながってるんだ」
「正確には、二つの装置をつなぎ合わせて、その間に近道を開いたんだ。どこにでも行けるわけじゃない。装置と装置の間だけ……」
「じゃあ……もし片方が壊れたら?」
私はハッとして言葉を詰まらせた。
そのときだった。
背後から、低く落ち着いた声が響いた。
「どんな道具でも、壊れれば危険だ。信号が乱れれば、転送したものが失われる可能性もある」
父、譲だった。
その声は低く、けれど突き放すのではなく、冷静に現実を示す響きを持っていた。
「だからこそ、出口を自由に作るような真似をしてはいけない。あくまで『信頼できる装置同士を繋ぐ』という前提を守ること。それが安全の第一歩だ」
青白い光が三人の瞳に揺れる。
父は胸ポケットに手を差し入れ、古びたメモ帳を少しだけ持ち上げてから、またしまった。言葉よりも仕草で語るように。
「道具は人を助けもするし、危うくもする。お前が作ったのは、そのどちらにもなりうるものだ」
私は深く息をつき、言った。
「うん、これは始まりにすぎない、ということか」
良太は黙り込み、光の縁を見つめていた。
そしてしばらくは誰も口を開かず、青白く揺らめく光だけがそこにあった。
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