ワープゲート・ノート 〜この小さな村からどこへでも〜
タケル
第一章第1話 プロローグ
私が住むこの村には第三セクターのローカル線「北三陸鉄道」の終着駅があった。
波音(なみおと)駅──地図の端っこに、まるでこっそりと置かれたような名前。
そのホームの先には、古びたトンネルがぽっかりと口を開けていた。
昔は、そのトンネルの先にも線路が続いていたらしい。
山を越えて、隣の集落へ、さらには大きな町へと貨物を運ぶために。
そして、ここに鉄道が敷かれる遙か昔には、べご(牛)を引き連れて塩や鉄を届けた時代もあったと聞いている。
けれど、私がものごころついたころには、線路の先は草に埋もれ、トンネルの奥は薄暗い廃墟のようになっていた。
駅には一日数本の列車が来るだけで、乗り降りする人も隣町の高校に通う学生ぐらいしかいない。
それでも、この村にとってこの駅は、外の世界とつながる「かろうじての接点」だった。
小さいころから、不思議でならなかった。
「どうしてここには、何もないのか」
駅のホームでぼんやりと遠くを見つめていたあの日。
青白い空と、遠くに霞んだ水平線の向こう。
この村を出て、もっと遠くまで行けたら──そんな気持ちが、胸の奥で膨らんでいた。
それから何年も経ち、私──タケルは北三陸鉄道で通った隣町の高校を卒業し、都会の大学に進み、工学を学んだ。
機械と電気と情報をつなぎ合わせることが、心から面白いと思えた。
けれど──東京での暮らしは長くは続かなかった。
世の中には「決まった道」があるらしい。
学歴、就職、昇進、転勤……。
でも、そのレールは、私の中ではどこか違う気がしていた。
結局、私は故郷に戻ることを選んだ。
人口三千人ほどの小さなこの村で、いくつかの地元企業のパート職を掛け持ちしながら、空き時間を見つけては、かつて夢見た装置の試作に没頭する日々。
そう、「ワープゲート」だ。
どこへでも瞬時に行ける装置──ただの空想だったはずのそれを、私は本気で作ろうとしていた。
そして、あのトンネルの奥で──ついに「最初のゲート」が開いた。
誰にも知られず、誰にも気づかれず。
廃線のその先、かつての鉄と塩の道の記憶を包み込むように。
私の「小さな一歩」が、村の未来、いや、世界の在り方すら変えてしまうことになるとは、このときの私には想像すらできなかった。
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