遺言
胃酸
一
恋愛とは――まことに一方通行の片道切符に似ている。あるいは時限付きの遊園地、または薬に耽溺するオーバードーズ、過剰なる陶酔か。束の間の幸福と、その果てに訪れる苦痛とを、必ず抱き合わせにして齎すものに相違ない。
されど、あの折の自身が如何にそれに狂わされていたかを思えば、今となっては馬鹿馬鹿しささえ覚える。人生において幾度出逢うか知れぬほど稀な、心の底より酔い、慕い、憧れ、そして愛した人間が現れてしまったがために、僕は感情の過剰摂取に陥ったのである。
全くもって、恋愛とは苦しみの側面の方が遥かに多いものだ。世間一般の目に映る僕のこれは、【愛】ではなく寧ろ【依存】と呼ばれるべきであろう。楽しさや愛おしさよりも、不安や悲哀や憂鬱に苛まれた時間の方が、幾十倍も長かったように感じる。そしてそこへ遠距離恋愛という甚だ重く、甚だ苦い負荷が添えられた。年の差一つ故の環境の相違、受験や進学に伴う数多の規制。幾度となく互いの行動を縛ったものだ――
今振り返れば、僕は貴方にとって都合のよい人間であった。それは薄々悟ってはいたものの、今や痛切に突きつけられている。何故か?
音信不通。何の言葉もなく置き去りにされたこの恋。挙げ句の果てに、貴方の一方的な我儘によって殺害されたからである。
これは、僕の遺言の様なものである。もし僕の死の暁には、僕と縁を持った人達に、是非とも読んで頂きたく思う。
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