新たなる英雄 キビウラジャとみやび
華子
第0話 振り返り
私の名前は吉村みやび。岡山県出身のJRA騎手として栗東トレーニングセンターを拠点に日々馬と向き合ってる。
競馬は私の人生そのもの。小さい頃から馬が好きで、ジョッキーベイビーズで関西代表として2着になったのもいい思い出。
中学生のときはバスケに夢中で乗馬からは離れたけど家族で阪神競馬場に行った宝塚記念で、矢島菜々花さんとアンジェラ・ユキ・ハミルトンさんの勇姿を見て、騎手になる決意をした。
高1の春から本格的に減量を行い試験を受け17歳で合格し高校中退し競馬学校へ入学、20歳で騎手免許に合格し2018年デビューしあれから9年、2026年終わりで433勝を積み重ねて女性騎手勝利記録を更新中だけどまだまだ上を目指してる。
私の好きな騎乗スタイルは中団からの差し。馬の力を信じて、タイミングを待つのが好き。
①ホープフルステークスの出会いと奇跡
2025年12月28日中山競馬場。冷たい風がスタンドを吹き抜ける中、私は川崎翼きゅう舎の2歳牝馬、キビウラジャに跨っていた。キビは栗毛の可愛い子で、名前の由来は岡山のうらじゃ祭り。私の故郷と同じで、初めて会った時から運命感じた。
新馬戦で5着、5戦目武野さんで未勝利戦で初勝利したけど、G1ホープフルステークスは97.4倍の大穴。ライバルはヨカロウモンやタイトエスペランサみたいなほぼ負け無しの怪物たち。
パドックでキビの耳元で「キビ、さあ私たちの時間だよ」って囁いた。
川崎先生が「みやび、キビの末脚を信じて」って背中を押してくれた。
ゲートが開きヨカロウモンが逃げる展開。
私はキビを中団でじっくり脚を溜めた。1000m通過57.56秒のハイペース。
最終コーナーを回り手綱を緩めたら、キビがバネみたいに加速した。
外から一気にヨカロウモンを差し切って、ゴール!
なんとレコードタイムの1分59.21秒。
信じれなくて涙が止まらなくて私はキビの首を撫でながら「ありがとう、キビ。やったよ…!」って呟いた。
スタンドからは「みやび!キビちゃん!」の温かいコール。
インタビューでも「これも全てキビウラジャのおかげです」って答えたら拍手が鳴り止まなくて川崎先生、馬主さん、キビウラジャに関わった全ての方達、そして沢山のお客様にも感謝の気持ちでいっぱいだった。
JRA日本人女性騎手初のG1制覇。キビとの出会いが、私の人生を変えた瞬間だった。
②競馬始めと海外の刺激
ホープフル制覇から年明け、岡山の実家で少し休んで、1月3日から栗東に戻った。
フリー騎手として、調教を手伝いながら依頼を増やした。
1月5日の京都金杯で矢島直人先生のオダンゴムスメで3着で幸先いいスタート。
翌週には杉田夏希先生からダート挑戦の話が来て、船橋競馬場のJpn2クイーン賞でベラクルスに騎乗。
2着だったけど、手応え感じた。
同期のトモこと宮川騎手に家に招待され、トモの赤ちゃん、颯太くんにはデレデレの杉田先生も一緒に楽しい食事をした。
サウジ遠征も決まって、ゲレーロオヤカタでG3サウジダービー3着。武野さんのヨカロウモンがサウジカップ2着でライバルの強さも実感できた。私も海外の舞台で戦えて自信になった。
キビの放牧中の報告も順調で、春の皐月賞が待ち遠しかった。
③悪夢の皐月賞
4月、皐月賞。キビはホープフル制覇で注目され前哨レースを挟まず皐月賞へ直行した。
調教で川崎先生と調教助手を兼任しているケーケンさんこと、高杉敬健騎手と戦略を練り「キビの末脚を信じて、最後に仕掛ける!」と決めた。
レース当日、キビの調子は完璧…
のはずだった…。
ゲートが開いて、戦略通り中団で我慢。
最終コーナーでキビが加速したけど、突然キビの呼吸が乱れてバランス崩した。
次の瞬間、私は振り落とされて頭を内ラチにぶつけ痛みが走り意識が遠のいた。
病院で目覚めたら、川崎先生と矢島典史騎手こと、ノリフミさんが涙ぐんでた。
キビは右前脚骨折で休養。私の身体は全治3ヶ月。
SNSの誹謗中傷が心を抉った。
「女性騎手の限界」「キビを殺す気か」
正直、引退の二文字がよぎったけど、ノリフミさんの「止まったらあかん!菜々花の分まで生きろ!」って言葉に救われた。
菜々花さんとは2年前に落馬事故でこの世を去った私の大好きな先輩騎手、矢島菜々花さん。
矢島典史さんの妹だ。
短期免許で来日していたアンジェラ・ユキ・ハミルトンさんも駆けつけて私も励まし抱きしめてくれた。
川崎先生は会見で「全責任は私に」キビも私も守ってくれた。
ファンの#みやび頑張れ が励みになった。
キビ必ずもどるよ…。
④復帰の夏競馬
5月、リハビリを終えてトレセンに戻った。キビはまだ放牧中。私は他の馬で復帰。
私は休養しながらレースを見て復帰に向けては準備を始めた。
東京競馬場へ招待されG1ヴィクトリアマイルでチャウネンに騎乗したジェイムズさん(ハウザー騎手)が久々のG1勝利に号泣して、私も拍手。
ただ木川調教師とダイトくん(山本大仁騎手)の確執を目撃して不穏な空気を感じた。
私は夏の中京競馬場で復帰戦。川崎翼きゅう舎の2歳未勝利で4着だったけど、馬場を駆ける感触が嬉しかった。
日曜には未勝利で久々の勝利。やはり競馬は最高。
8月新潟競馬場ではアイビスサマーダッシュに出走して川崎きゅう舎のゴババチバクンに騎乗。
チバクンの枠は1枠、内枠だった。千直では外枠有利と言われたけど彼の末脚を信じて内ラチ攻めで同着1着!
イズマイマイ騎乗のルーキー近藤莉奈ちゃんとW勝利。
インタビューで2人で「やったーっ!」って喜び合った。
新潟競馬場のジョッキールームで納豆パーティーを勝手におっ始めたジェイムズさんが大暴走…。
私納豆嫌いなんじゃけどな…。未だにあのニオイと味は好かんわ…。
莉奈ちゃんが納豆にニンニクを大量投入して異臭騒ぎ…。何しとん…。
こんなコミカルな出来事もありつつ夏競馬で改めて競馬の楽しさを実感した。
キビ、もうすぐ会えるよ。
⑤秋競馬の復活と想い
8月末にキビウラジャが帰厩が決まった。川崎先生が神妙な面持ちでオーナー話を聞いていたら牧場オーナーからキビはごはん完食と報告。 というか、残した事は全く無いみたいで私とケーケンさんはズッコケ。
キビは放牧先でも食欲落ちることなく良い子だったみたい。
秋華賞トライアルレースのG2ローズステークスでキビと復帰。私の誕生日だったこの日、中団から末脚爆発で1着!
お客様の「おかえり!」に胸熱くなった。
G1スプリンターズステークスはゴババチバクンに騎乗し3着。
栗東に移籍したダイトくんがシューハリウッドに騎乗しG1初制覇。
色々あったダイトくんが生き生きと競馬出来ていて安心したな。
短期免許外国人騎手が4人来日した。
ホルヘ・ニキタ・ヤマムラ騎手
サーシャ・アリエフ騎手
美浦にはいつもの最強夫婦、ブラット・プラ騎手、エミリー・ローズ騎手がトレセンを賑やかしてくれた。
サーシャのネイティブ関西弁サプライズやホルヘのいきなりの口説きに皆爆笑。
キビウラジャと挑んだ秋華賞はサーシャ騎乗のドスエにハナ差で負けて2着。ドスエちゃん強かったけど、キビの強さも確信した。
菊花賞はタイトエスペランサが制覇。
濱田さんの「エクセレントベリーホース!」を聞いて私もキビウラジャもエクセレントになるんだと決意。
⑥波乱の11月とG1月間
天皇賞・秋でヨカロウモンが圧勝。武野さんの強さに私は闘志を燃やしながらJBCが開催される金沢競馬場へ。
師匠である園田競馬所属の田原尚美さんに再会して、ルーキー時代の思い出が蘇った。
JBCレディスクラシック、私は船橋競馬で結果を残せたベラクルスで挑んだ。
結果は莉奈ちゃん騎乗のウラヤハに負けてハナ差2着。悔しいけど莉奈ちゃんの成長に感心。
つづいてJBCスプリントはゲレーロオヤカタで2着、メインレースのJBCクラシックはハロチータ5着。
私はダート競争でも着実に成長してきている。
JBC の興奮冷めやらぬ中、最強の牝馬が揃うG1エリザベス女王杯に挑戦してキビウラジャは4着。
最強の牝古馬プリンプリンに騎乗し勝利したノリフミさんの「鬼鬼鬼!」インタビューに爆笑。私の事は鬼よりおっかない鬼殺し娘…まあ強そうだから良しとしますか…。
キビウラジャも私も着実に力をつけてきている。
さらにダートG1チャンピオンズカップでケーコ先生こと、中田景子先生のスピードスターに騎乗し、大穴を覆し2着。
アキくんこと、斎藤明秀騎手のイダテンダッペエの久々の勝利に「アキくん、おめでとう!」と思わず言ってアキくんからも感謝された。
⑦有馬記念の奇跡有馬記念。
キビウラジャは人気投票8位で出走確定。
枠順抽選で4枠8番。
有馬記念では鬼門の大外枠引いちゃったジェイムズさんの絶叫やエミリーの「ワクワクしない」発言には爆笑したな。
レース当日、中山競馬場にアンジェラさんが通年免許の1次試験の合格を報告しにきてくれてでめっちゃ嬉しかった。
2次試験も受かったら来年3月に一緒に競馬が出来るのが嬉しくてたまらなかった。
前日の雨で重馬場の中、キビを中団で構え最終コーナーでキビの末脚を爆発させヨカロウモンをハナ差で差し切って1着!
武野さんとの握手、皆の祝福に胸いっぱい。
キビウラジャと私の奇跡が歴史に刻まれた。
キビ…本当にありがとう…。
⑧ホープフルステークスと東京大賞典
有馬の興奮冷めやらぬ12月末、G1ホープフルステークス、私は井崎慎吾先生のオコノミコシードで出走。
本来乗る予定だったビゼンノキセキは山岡先生とダイトくんから物凄い謝られて譲ったけど、内心ちょっと寂しかった。
中山競馬場、重馬場の中、ダイトくんが騎乗したビゼンノキセキが1着。
私とオコノミコシードは3着だったけど、ビゼンの強さを実感し悔しいよりも嬉しいが大きかったな。
他にもトラダモンやアスルクラロの末脚もすごくて来年の3歳路線がまた盛り上がりそう。
外国人騎手4人とお別れの挨拶、ホルヘから「ツウネンとります!」って涙にちょっともらい泣きしそうだった。
ホルヘ、サーシャ、ブラット、エミリー、また来年、待ってるよ。
翌日、大井競馬場の東京大賞典。私はチャンピオンズカップで好走したケーコ先生のスピードスターで挑む。
レース前には大井競馬所属からJRAで活躍した、ササノエスペランサの引退式があった。
騎乗経験があったササノに私も感謝でいっぱいだった。
横川さんや濱田さんの彼への愛を見て、競馬の絆に改めて感動した。
東京大賞典のレース発走前にジェイムズさんがエタルナフヴェントの異常を感じ、彼は検査結果、競走除外になった。彼から馬ファーストの姿勢を感じた。
レースはサムライバガボンドが勝利。
スピードスターは3着…あぁー悔しい!ボンド君とトモ(宮川騎手)の強さに完敗だった…。
勝利インタビューの時にトモに抱っこされた颯太くんが「たたぁーっ!おめてぇ!」ってマイクをゴリゴリ触る姿に大井競馬場が大爆笑に包まれた。颯太くん大きくなったなぁ〜
悔しい結果だったけど私はダートの舞台でも戦える自信がついた。
去年からのホープフルの勝利、皐月賞の試練、キビウラジャの復活、有馬の奇跡…全部が私の宝物。
第二章では古馬になったキビウラジャと一緒に新しい挑戦、新たな出会い、そして大きな決断も…。
私自身の人生もこのお話で大きな転換期を迎える。
皆さん、私たちの活躍をどうか温かい目で見守っていてくださいね。
以上、吉村みやびでした。
第二章 スタート!
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