多分、生きている中で一番の衝撃ですわ

Side エミリア


何かがおかしいと思った。明らかに見回りに来る兵が少ないのだ。扉の方に見張りは居ない。窓の外には兵がいるが、数は三人。この違和感をどうしていいか分からなかった。


「もしかして、連れて来た兵は物凄く少ないのかしら?」


「王妃様、やっぱりそう思いますか?」


「引っ掛かるわね。もしかして籠城戦でもするつもりなのかしら?」


だとしたら愚策だと思った。この城は交易拠点にもなっているため、道がいくつも繋がっている。塞ぐとしても多くの人数が必要となる。


「まさか、城の形状を知らないで攻めたのかしら?それで兵が分散している。」


しばらく思案した。逆に中で騒ぎを起こすことができれば、その分散した兵を更に錯乱させることが可能だ。だがやるとしたなら何時いつ?暗闇では自分の安全性は高いが、その錯乱が外に伝わらないかもしれない。


なら、やるならば夜が明けてから。


「マグリット……私、博打をしてみようと思うの。」


「博打、でございますか?」


「夜が明けてから逃げ出すわ、大騒ぎを起こしながら。」


「……兵を、攪乱するのですね。」


そういいながら彼女は何かを取り出した。短剣、それを持った彼女は自分のドレスの裾を切り始めた。足首が見えるほどの長さになったドレスを眺めながら、その状況に私は呆然とした。そして彼女は「少々はしたないですね。」と言いながらニコッと笑うのだ。


「私の実家は帝国との国境にあるウォール辺境伯爵家。」


その言葉は彼女から初めて聞いた。いや、知識としては知っていたのだが。ウォール辺境伯爵家、と聞くと男女に関わらず、武芸を嗜むとは聞いてはいる。ただし、嫁ぎ先が見つからないので、大変という話を聞いていたので、彼女はそうではないと思っていた。そこでハッと思った。


「……まさか、馬に乗れないというのは。」


「嘘です」


即答での返答にこちらが驚いてしまった。


「最悪、王妃様一人なら守れるかと思っていたのです。武器さえあれば、ですが。」


そう言いながら彼女は私の部屋のクローゼットを開けた。その中に入っていたのは細い剣だった。


「備えあれば患いなし、ですわ、王妃様。」


ニコッと笑うケルビー侯爵夫人。ちょっと予想していなかった展開です。一人で撹乱するつもりでいたからありがたいけど……。


「ごめんなさい、頭が追い付かないわ。」


「申し訳ございません。か弱いふりをしている方が、隙を作ってくれますので。」


悪びれる様子もなく、彼女は用意を始めた。そして思い出しように最初にドレスを切り裂いた短剣を手渡してきた。


「武器がないよりもあった方がいいですからね。王妃様、ご命令を。どんな決定であろうとも私は従いますわ。」




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