乞食冒険者は神獣少女に添い寝する

神森倫

第1章 神獣少女

第1話 封印された少女

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(警告)この物語には純粋な方には耐えがたい部分があります。

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 僕はロングライト。風狂神という神だ。


 転生して200年がたった。僕の生活はあまり変わらない。午前中はモンスター討伐。薬草採取もする。終わると冒険者ギルドで、2000チコリくらい換金する。


 モンスター討伐の成果を全部換金するわけではない。僕の従者の倉庫妖精のクララが、残りの魔石やドロップをダンジョントレードという仕組みで適宜換金してくれる。


 午後は近くの町で布施行。布施はスラムのような貧しい地域で行う。汚れた場所にクリーンをかける。クリーンはこの世界ではだれでも持っているはずなのに、それでもスラムには汚い場所がある。同時に笑顔で励ましの言葉をかける。和顔愛語という。


「今日もいい日でありますように」


 100チコリというわずかなお金を、気づかれないように他人の財布やポケットに入れる。贈与スキルを使うと簡単だ。その日狩ったモンスターの肉をほんの少量だけ贈与することもある。ささやかなスキルを贈ることもある。


「少しで御免」


 人が少ないときは、笛を吹く。足元に置いた鉢にたまに投げ銭がある。最後に道端に死に来た老婆がいれば、抱き起し、死を見送る。


 布施行は社会貢献ではない。前世で妻を奪われたこと。それがいつまでも忘れられず、何か償いのようなことをしないと僕の気が狂うのだ。


(気が狂った神など、社会の迷惑そのもの)


 冒険者ランクはEランク。最底辺冒険者だから、めったに宿には泊まれない。集落の囲いの外で野営だ。


 そして次の日は次の町へ。ズドーライン王国を3か月で1周する。僕のような冒険者を人は乞食冒険者と呼ぶ。


 僕は転生者だ。アルテミスという女神が、僕が神という種族を選ぶことを許してくれた。僕のテーマは風狂。前世の言葉で風雅に狂うこと。


 神としては信者が1人以上いるEランク。冒険者と同じで底辺の神。人は野良神と呼ぶ。


 王国西部の脇街道を歩いていたら、スタンピードの痕跡を見つけた。モンスターたちがダンジョンから狂ったように外へ出て、村や町を襲う。それがスタンピードだ。多くの村や町がそれで滅びている。


「5日前だ」


 僕の200年の経験が教えてくれる。この山奥のダンジョンからスタンピードが起きたのは、5日前だ。


 ダンジョン出口から続く獣道は多くのモンスターであふれたようだった。押しつぶされて死んだ、モンスターの死骸が放置されている。始末するのは冒険者のマナーだ。


 僕はこういう死体処理が得意だ。クララという倉庫妖精が、自動回収から、解体、」ダンジョントレードを使った換金までしてくれる。僕はスタンピードの痕跡をたどるだけでいい。


 走っていくと、最初の村があった。多分100人規模の村だ。


「全滅?」


 痕跡からは村が襲われたのは、3日前だろう。クララにすべての回収を頼む。モンスターや人間の死体、建物、家具、衣類、食糧などが回収され、村だった場所は更地になった。クララの倉庫は僕に不相応に優秀だ。


 生きている人はいなかった。人も、家畜も。犬も。みな喰われたり、踏みつぶされたりしていた。村人の殺したモンスターは約50。500体くらいのスタンピードのようだ。50減ってもまだ450。


 モンスターたちは次の町へ向かっている。その先にあるのは、千人規模の大きな町だ。城壁も整備されている。だが時間的に深夜になる。不意打ちされたら全滅もありうる。そして距離と今の時刻を考えると、夜に襲われる可能性は高い。


 僕は走って次の町へ向かう。スタンピードが町へ着く前に報せれば、助かるかもしれない。


 夜遅くになってしまった。


 町は静かだ。城門が開け放たれていた。スタンピードはもうここを通過し終わっていた。血の匂いが濃い。僕は呟く。


「おかしい」


 普通、夜は城門を固く閉める。それがなぜ開け放れていたのか。僕にはそれが理解できない。


 モンスターがまだ町にいるかもしれなかった。警戒しながら、僕は城門から町に入る。抵抗の跡はある。しかし装備が不十分な遺体が多い。不意打ちだったんだと分かる。


 クララにすべて回収してもらう。僕はここに泥棒に来ている。残しても次の野盗に奪われる。先に来たものがすべて奪う権利がある。野盗のルールだ。


 モンスターの死骸は約290。まだ160の規模のスタンピードが続いている。


 クレセントにクララを介して念話する。クレセントは僕がアルテミス女神から借りている神弓だ。人化することもできる。彼女にスタンピードの残りを狩ってもらう。奴らは僕の得物だ。


 回収できないものがある。まだ死んでいない者たちだ。命を助けられる人はいなかった。まだ生きてはいるが、死にゆく人が8人。彼等を見ると僕は抱き上げ、一人一人見送る。今日の最後に見送る人は男性だ。


 いつも通りの手順で輪廻に送る。最後に遺体は倉庫に収容し、僕の持つエンプティ・ダンジョンで消失してもらう。放置すれば、或いは中途半端な埋葬では野獣や、モンスターの餌になるだけだから。


イレギュラー発生。


 最後のお爺さんの遺体だけが、クララの倉庫に収容できなかった。もう死んでいるのに、まだ何かの精神が生きている。


 以前、妊婦の女性を輪廻に送ろうとしたとき、体内で赤ちゃんが生きていたことがあった。その時と似ている。でも今倉庫に入らないのは、60歳を超えたアズル教の男性神官だった。服装でわかる。


 クララを呼び、人化して出てきてもらう。


 クララは鑑定持ちだ。彼女の鑑定では、体内に何か封印されているという。クララが男性の遺体を解体して何か半透明の袋を取りだした。ナイフで袋を切り裂くと、赤ちゃんが生まれる時のような大きな泣き声が聞こえた。


 出てきたのは赤ちゃんではなく女の子だ。クララの鑑定では神獣だという。


「神獣?」


 しばらくすると、女の子は意識を取り戻した。口は利けて、8歳でアリアという名前だという。しかしそれ以外何も覚えていなかった。


 クララの見立てでは、アズル教の封印の手口だという。


アズル教は僕たち古代神と対立する強大な一神教の教会だ。奴らはむごい。


 敵を、つまり我々を、洗脳して、神官の体内に封印する。他人の肉体の暗い所に袋に入れられて閉じ込められる。それがどんなに恐怖か。たいていのものは気が狂う。


 封印された神官の死の際に、最も近くにいたアズル教の神官に自動的に封印が移される。神官たちは体内に封印されたものがいるとは気づかない。よほど重要な敵を封印する場合しか行われない。神官の負担も大きいのだ。


 強力な精神力を持つ者は、殺して輪廻に返しても、また同じ神格を持って再生してくる。それを防ぐために、殺さず現世で封印するのだという。むごい。僕は呟く。


「それほど重要なアズル教の敵?」


 それなら古代神陣営にとっては、強力な味方なのか?


 スタンピードという異常事態で、近くに生きた神官がいなかったんだろうか。アズル教の封印の仕組みにわずかなスキができたようだ。


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前作「風狂神ロングライトの転生」も読んでもらえると嬉しいです。

 

評価をしてくれると喜びます。

                        神森倫

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