王妃様が王妃になったのは、猛獣の尻尾を思いっきり踏んだ結果だった。
まるちーるだ
プロローグ
久方ぶりに、息子の嫁であるターシャとエレーナをお茶会に招いた。
招待といっても大仰なものではない。私と二人の娘だけの、静かな午後のひとときだ。
しばらく談笑していたが、ふとターシャが悩ましげな顔をして口を開いた。
「あの、王妃様……」
なぜか少し硬い表情のまま、彼女は一口だけ紅茶を含み、それから真っ直ぐにこちらを見据えてきた。
妹と似た顔立ちでありながら、かつて私が苦手に思った妹の面影とは違い、彼女からは嫌悪を感じない。
「ステファン様に『義母上のように悲惨な目に遭いたくなければ、そういうことは言わない方がいい』と、ものすごく怖い笑顔で言われまして……。
失礼でなければ、王妃様がどんな目に遭われたのか……お聞きしてもよろしいでしょうか?」
ステファンがそんな忠告をするとは珍しい。だが「悲惨な目」とは何を指しているのか、私自身すぐには思い当たらなかった。
「ターシャ、その言葉を言われる前に……あなた、何を口にしたの?」
そう問いかけると、ターシャの頬がほんのり赤く染まった。
結婚してからというもの、ステファンはありとあらゆる手を使って愛を囁き続けていると聞く。
ターシャも、どうやら少しずつその生活に慣れ始めているようだった。
「……夜のお相手が、その……激しくて。数を控えていただくか……あるいは、別のお相手を……検討していただけないかと……」
まるで蚊の鳴くような小さな声。
聞き取った私は、思わず「ああ、そういうこと」と納得してしまった。
その二択なら、ステファンは間違いなく“数を減らす”方を選んだだろう。
けれど——同じような言葉を、かつて私も口にしてしまったことがある。
そのとき私がどんな目に遭ったのか……思い返すのも気が重い。
「それはね……非常に悪手だったのよ」
言葉にすると同時に、胸の奥に古い記憶が蘇り、自分の浅はかさを苦々しく思い出していた。
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