第10話 戸霜村(としもむら)

天貴が亡くなって、三日が経った。

葬儀も終わり、ようやく「お別れ」という現実が静かに胸に沈んでいく。

悲しみと、なぜか少しの希望。

その二つが入り混じって、心の中は複雑だった。


通り魔のニュースはまだ続いている。

犯人は捕まっていないという。

けれど今の栞には、その現実でさえ遠くに感じられた。


葬儀のあと、天貴の両親から祖母の出身地を聞いた。

場所は──戸霜村(としもむら)。

この街から電車とバスを乗り継いで五時間ほどかかる、

山あいの小さな村だという。


翌日、栞は学校を休む。

両親には「今日は帰らないで友達の家に泊まるね」とだけ伝えて、家を出る。 ──誰にも言えない。

でも、どうしても行かなくちゃいけない気がした。


車窓に流れる景色を眺めながら、

あの日のことを思い出す。

なんであの時、彼は「好き」って言ったんだろう。

いつもと違った。

笑いながらも、少し寂しそうな声だった。


気づけば、手の中のネックレスを握っていた。

もう光を失った、星のかけら。

それでも、栞にはまだあのぬくもりが残っている気がした。


バスを降り、少し歩くと村が見えてきた。

山に囲まれた静かな土地。

細い道沿いに小さな商店がいくつか並び、

そこを抜けると畑と木造の家が点々と広がっていた。

まるで時間が止まったような場所だった。


「星のことを知っている人、いませんか?」

何人かに尋ねたが、誰も知らなかった。

ただ一人のおばあさんが、

「村長さんなら、何か知ってるかもしれないよ」

と、山の奥の家を教えてくれた。

神社のすぐそばにあるという。


その家を訪ねると、そこには──

若い女性が立っていた。二十歳くらい。

静かな目をした、透き通るように美しい人。


「どこかで……お会いしましたか?」

言葉には出していないのに、

お互いにそう感じた。


「すみません、この村の村長さんを探していて……」

「──私です」


栞は思わず息をのんだ。

若くして村を導く、星のような人がそこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る