第9話

港町の薄明かりの下、父子は倉庫群を慎重に進んでいた。

「手帳のルート通りなら、次の目的地はあの古い工場だ」健一が指差す。

「……そこまでついて行く必要あるのか?」蓮が尋ねる。

「現場で証拠を押さえないと、犯人を追えない」


工場に近づくと、錆びた門の隙間から不自然な光が漏れていた。

「誰かいる」健一は小声で呟く。

蓮もスマホを構え、光の揺れ方を確認する。

「たぶん、あの影だ」


父子は息を潜めて建物内に潜入する。

足音を忍ばせながら、奥の部屋に辿り着くと、黒い影が何かを探すように動いていた。

「今だ、オヤジ」蓮が指示する。

健一は一歩前に出て影を追い、蓮はスマホで映像を記録する。


影はふと気配に気付き、振り返る。

「……来たか」健一は静かに声をかける。

影は一瞬立ち止まり、部屋の隅へ逃げ込もうとした。

「捕まえろ!」蓮が叫び、健一が追う。


影が壁際で何かを落とす。健一が拾うと、そこには新たな手がかりとなる資料があった。

「これで少しは犯人の行動が読めるな」健一は資料を確認する。

蓮もスマホで暗号を解析し、ゲームの情報と照合する。

「なるほど、ここまで来ると動きが繋がる」


父子は初めて、犯人の輪郭をはっきりと掴みかけていた。

だが、背後で微かな足音が響く。

「……まだ誰かいる」蓮が呟く。

「気を抜くな」健一は懐中電灯を握り直す。


港町の工場に、父子の影と、犯人の存在――緊張の糸が張り詰める。

次の行動次第で、事件は決定的に進展する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る