第4話



 港町の冷たい海風が二人の顔を打った。

 健一はマフラーを首に巻き、蓮はフード付きのパーカーで顔を半分隠す。


 「ここが、ゲームで再現されてた倉庫か」健一は呟いた。

 瓦礫と錆びたコンテナ、打ち捨てられた木箱。ゲーム内で見た光景と寸分違わぬ現場に、蓮も驚きを隠せない。


 「俺、こんな場所に来たの初めてだな……」

 「……事件の現場は、現実の方が数倍寒い」

 二人の口調はぎこちないが、互いの存在を認めるわずかな空気が漂った。


 健一はポケットから懐中電灯を取り出し、倉庫の内部を照らす。

 「蓮、あの壁に書かれた文字列、現場に対応するはずだ」


 蓮はスマホでゲーム内のスクリーンショットを確認しながら、壁面の錆びた鉄板を指さす。

 「ここ……上下左右のボタン入力を再現すれば、次の手がかりが現れるはず」


 健一にはさっぱり分からない。だが息子の手つきを見守るしかない。

 数分後、蓮が指示通り操作すると、壁の一角がわずかに動き、隠し扉が現れた。


 「……やっぱり、ゲーム通りだった」

 健一は思わず息を呑む。


 中に入ると、古びた木箱の中に封筒が置かれていた。

 中には写真と古い手紙。写真は港町の倉庫を撮影したものだが、確かにゲーム内にあった人影が映っていた。

 手紙には、かすれた文字でこう書かれていた。


 《あの日、私は見た。真実は隠されている――誰にも触れさせないでくれ》


 蓮は眉をひそめた。

 「これ……ただのジョークじゃない。本当に誰かが残したメッセージだ」

 「そうだな」健一も頷いた。

 「……やっと分かった。お前が言ってた通りだ。ゲームは、現実の事件と繋がってる」


 ふたりの距離はまだ完全には縮まっていない。だが、目の前の証拠が、自然と協力せざるを得ない状況を作っていた。


 「次に行くぞ」健一は懐中電灯を握り直す。

 「え、どこへ?」蓮は少し警戒する。

 「次のイースターエッグは、この倉庫だけじゃ見つからない。現場は他にもある」


 息子はため息をついた。

 「……わかったよ、オヤジ。仕方ねぇ、ついて行ってやる」


 港町の闇に、二人の足音だけが響く。

 ゲームの謎、現実の事件、そして父と子――三つのコードが絡み合い、物語は次の局面へと進んでいく。





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